「日本は壮大な実験場になる」…人工知能研究の第一人者に聞く「AIにはできない」こと
ChatGPTはブレーンストーミングの「メンバーの一人」として考える
「でも実はChatGPTを使いこなすのは、とても難しいのです」 ChatGPTは聞いたことには答えてくれるが、聞いたことにしか答えてくれない。答えをもらうためには質問をしなくてはならないが、質問の仕方が悪いと想定外の答えは出てこないのだ。 「想定外の答えを得ようとすると、質問の仕方を相当工夫しなければなりません。とんでもない知識が入っているけれど、自分が思ってもいない答えを引き出すのが難しい。たぶん僕も、本来の能力のほんの少ししか使いこなせていないと思います」 多様な質問をするためには、いろいろな見方ができる能力、人が言っていることを理解する能力、発想力などの“人間力”が必要になってくるとか。 「もう一つ大事なことは、ChatGPTは1対1で使わないことです。1対1で使うと、自分の能力、発想力以上のものは出てこないから。ブレーンストーミングのメンバーの一人として使うといいと思います」 ◆脳を鍛えてこそAIが使いこなせる “人間力”を養うためには、子どものころに体を使って遊び、さまざまなものに触れて、脳を鍛えることだとか。 オーストラリアでは16歳未満の子どもがソーシャルメディアにアクセスできないよう規制する仕組みが導入されたが、 「まことに正しい。インターネットはビジネスや仕事で使うと効果がありますが、ほかではあえて使う必要はありません。脳を鍛えなくてはいけないときにインターネットやAIにべったり頼ってしまっては意味がない。脳を鍛えてこそAIが使いこなせるようになるのですから」 脳を鍛える時期が過ぎてしまった私たちは、どうしたらいいのだろう。 「たとえば本を読むことです。それもビジネス書ではない、文芸書。ものを理解する、考える、発想するためには小説や哲学書などを読んだほうがいい。感情をゆさぶられるということは、脳が刺激されたということ。 読むだけでなく、頭に入って、自分の経験と照らし合わせて感想を言えるかどうか。AIは自分のレベルでしか使いこなせないので、自分を高めなくてはいけない」 ◆日本は壮大な実験場になる デジタル後進国といわれている日本。これから巻き返すことはあるのか。 「現在のAIは道具です。自分で判断して動くことはできない。けれど、これからは自分で判断して動く自律型AIが必ず登場する。それを受け入れる土壌があるのが日本だと思います」 鉄腕アトムやドラえもんのようなAIロボットが登場するのは、それほど遠い未来ではないという。ところが、欧州連合を中心に、このようなAIロボットを規制する動きが強まっている。 「キリスト教圏では神の下に人間、すべてのテクノロジーは人間を助ける道具であって、ロボットはあくまで道具。だから、能動的に動作するタイプのAIには抵抗感があるんです。 対して日本では、昔から鉄腕アトムやドラえもんなどAIロボットを友達としてみている文化がある。ゆるキャラなど人間でないものとも共存している。このような文化は日本独特です」 AIロボットを受け入れる土壌が日本にはあると栗原教授は言う。 「日本は、自律型AIロボットを使いこなすための壮大な実験の場になるでしょう。そのとき必要なのは、AIを操作するデジタル能力ではなくて、ドラえもんと何をするかということ。脳を鍛えておかなければいけません」 自律型AIが登場したら、人間は何をすればいいのか。 「面倒くさい仕事は全部AIにやってもらえるのだから、よりハッピーに、より快適になります。人間は自分がやりたいことをやればいいだけ。 ローマ時代、ローマ人はやりたくないことは全部奴隷にやってもらった。その結果、さまざまな哲学や芸術が花開きました。将来、そうなる可能性もあるのです」 栗原聡 慶応義塾大学理工学部教授。人工知能学会会長。慶応義塾大学共生知能創発社会研究センター・センター長。慶応義塾大学AIC生成ラボ・ラボ長。人と共生できるAIの実現を目指し、自律型認知アーキテクチャの構築に取り組む。またネットワーク科学では、複雑な社会現象や生命現象をネットワークの観点から解析し、新たな知見や応用を探求している。 取材・文:中川いづみ
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