有罪立証に強気な検察、3度の「誤算」…「証拠捏造」指摘も聞こえぬ反省
翻弄 袴田さん再審無罪<中>
静岡地裁が袴田巌(88)に再審無罪判決を言い渡した直後の26日午後4時過ぎ。弁護団事務局長の小川秀世(72)は地裁から約300メートル離れた静岡地検を訪れていた。 【図解】一目でわかる…袴田巌さんを巡る再審判決のポイント
小川は検事2人に強く訴えた。「控訴せず、この長い裁判に決着をつけることが、公益の代表者としての検察官の本当の責任だ」
1966年に静岡県で一家4人が犠牲になった放火殺人事件。強盗殺人罪などで死刑が確定した巌の再審公判で、検察は有罪立証に自信を持っていた。血液と油が付いていた巌のパジャマ、巌が借金を重ねていたという事実……。「あらゆる証拠が犯人だと示している」と幹部は話した。
それだけに、有罪の決め手とされていた「5点の衣類」など三つの証拠を「捏造(ねつぞう)」と言い切り、主張を一蹴(いっしゅう)した地裁判断への反発は大きい。判決当日は「こんな判決を確定させてはいけない」との意見が噴出した。
だが、一夜が明けた27日。新聞各紙の1面には「検察は控訴断念を」という見出しが並んだ。「ここまで世論は厳しいのか」。ある検察幹部は語った。
控訴期限は来月10日。検察OBの弁護士は「『捏造』が独り歩きしている」と判決に批判的な見解を示す一方で、「主張が全否定されており、覆すのは厳しいのではないか。怒りにまかせるのではなく、検察には控訴の是非を慎重に検討してほしい」と話す。
検察にとって第2次再審請求は「誤算」の連続だった。
最初は2014年の再審開始決定。静岡地裁が5点の衣類について捜査機関による「捏造」の疑いを指摘し、釈放まで決めたのは「全くの想定外」(検察幹部)だった。釈放の決定を停止するよう地裁に求めたが拒否され、巌は「死刑囚」という立場のまま拘置所の外に出た。
昨年3月に再審開始が確定した東京高裁の審理でも当初、「十分な主張ができた」と楽観論が広がっていた。だが、主張はことごとく退けられ、再び「証拠捏造疑惑」にまで言及された。