温故知新のカツカレー 「変わらない」が新しい
大正10年創業の豚カツの名店「王ろじ」の一番人気メニュー「とん丼」は、看板の「昔ながらのあたらしい味」という文言そのもので、長く愛されてきた一品ながら妙に新しいニッポンのカツカレーである。「(創業者の)親父が『他と同じでは面白くない』というタイプで、独自の世界観で完成させた」と、来住野正明店主。「とん丼」のカレーは「手に入るスパイスが少なかった時代に、ある食材で工夫を重ねた。焼酎漬けのニンニク、焼きリンゴなどを使っている」(来住野店主)と先代の味を守り、深みがあるのにどこか懐かしい印象的な味わいだ。 【写真説明】(右)「とん丼」1,250円(税込み)は日販100食を超える名物。100年以上前に先代の店主が考案したという、特注の器に盛り付けたこのビジュアルが今も不思議に新しい。/(左)「とん汁」(550円税込み)は、注文が入ってから豚ばらベーコンと玉ねぎを炒め、麹味噌で仕上げている。ホッとする豚汁ながら、どこか粋で洋風の味わい。
ニッポンのカレーは丼で提供すべし!
豚カツは、脂身を適度に残したロース肉約150gをたたいて延ばし、巻くようにして揚げている。外はカリッ、中は軟らかく、カレーと合わせて食べるのがもったいなく感じてしまうほど。そして、強烈な魅力を放っているのが、このビジュアルだろう。器は受け皿と丼がくっついた一体型の特注の丼で、豚カツを立体的に盛り付けると粋な風情が漂う。和のカレーは丼で提供するのが正解! そう提唱したくなる完成されたビジュアルだ。 「店がここまで長く続いているのは、変わらなかったから。時代ごとに味の流行があり、心が揺れたこともある。でも、うちの味を求める常連さんに支えられているのだから、変わらないことも大事」という来住野店主の言葉が何とも深い。
日本食糧新聞社