人類の歴史を変えた「たった1つの質問」
「たしかに。だがね、素晴らしい質問なくして、素晴らしい答は出せないんだ」 ジョゼフはそこで言葉を切り、メガネを鼻にのせ、そのうえから私をのぞきこんだ。 素晴らしい質問なくして、 素晴らしい答は出せない。 「きみの働き方をひと言で言い表すような質問はあるかな?」 「もちろん。適切な答を出し、いつでもそれを証明できるようにしておく、それが私のモットーです」 ジョゼフはそれを自分自身に問いかける質問として言いなおしてみてくれと言った。意味がわからなかったが、彼の言うとおりにした。 「おそらくこうでしょう。『私はどうすれば自分が正しいと証明できるだろうか?』」 「素晴らしい。これでおそらくきみの問題点がはっきりしたね」 「私の問題点?」 「アンサーマンだということ。自分は正しいと証明したがることだ。ベン、われわれは思っていたよりも早く本題に入ったようだね」 意味がよくわからない。ジョゼフは私をからかっているのだろうか?いや、彼はしごくまじめだ。 ● コミュニケーションにおいて 正しさの証明は重要ではない 「今、なんとおっしゃいました?」 「自分の答が正しいという証拠を見つけるのは大事なことだよ。だけど、正しさも行き過ぎるとかえって問題になる場合もある。 たとえば、きみが正しいことをしなければならないという思いは、チームの人たちにどんなふうに受け入れられると思う?」 「意味がわからないのですが?だれもが答をさがしているんです。それによって収入を得ている、そうじゃないですか?」 私は自分のチームに答を見つけてほしかった、それも正しい答を。 「少しプライベートな話をしようか。きみが自分は正しいと証明するのを、きみの奥さんは喜んでいるのかな?」 その言葉がグサリと胸を突いた。「いえ、そんなことは……」と私は認めた。
自分は正しいと言い張るのが私の癖だ。その癖に、グレースはしょっちゅうイライラすると言っていた。 「私の妻だって喜ばないよ」とジョゼフは笑みを浮かべて言った。 「そのことを心にとどめて、どんな質問が本当に効果があるか、もう少し深く考えてみよう。質問がコミュニケーションに不可欠な要素だということはわかっているね。だけど、思考における質問の役割はあまり知られていない。だからこそ、クエスチョン・シンキングのスキルが非常に貴重なんだよ。 きみが質問のもつ真のパワーをしっかり身につける気があるなら、質問で人生すべてを変えることができる。 それには、自分自身やまわりの人への質問の数を増やし、質を高めることが大切なんだ。さらに、質問をする際にはその意図がどこにあるかも非常に重要だ。ルーマニアの劇作家、ウジェーヌ・イヨネスコの有名な言葉がある。『人を正しい道に導くのは答ではなく、質問だ』」 ● 質問を変えれば行動が変わる? クエスチョン・シンキングとは 私の顔に戸惑いが見えたのだろう。ジョゼフは少し間をおいて、こう言った。 「これまでクエスチョン・シンキングという言葉を聞いたことがないんだね?」 たしかに聞いたことがない。私は首を振って応えた。 「クエスチョン・シンキングというのは、質問を使った思考スキルの体系でね。さまざまな状況への取り組み方の幅を広げてくれるものだ。 このスキルを使えば、きみの行動が途方もなくよい結果をもたらすように、後ろ向きな質問を前向きな質問へと変えることができる。 まずは自分に問いかけることから始める。そして、他者に質問を向ける。 クエスチョン・シンキングは文字どおり思考に作用するんだ。ピントのぴったり合った創造的で効果的な作用を思考にもたらす。