まるで「江戸時代の少年ジャンプ」…幼馴染との淡い恋や故郷に迫る大悪党との対決も!青春盛りだくさんな「歴史小説」
前途多難な旅路
箱根を越えての山祝いの旅路にあることを実感した彼は、14里余を走破して日暮れに戸塚宿に着いた。平旅籠に草鞋を脱ぐつもり。脂っぽい夜具、汚い風呂、まずい食い物にも頓着せず、旅を存分に楽しんでいる人々と接するのが気に入っているからである。 が、どの旅籠でも宿泊を断られてしまう。鎌倉、江の島、大山をめざす江戸っ子でいっぱいなのであった。日没ぎりぎりに到着したのが失敗だったようだ。 できる限り陽の高いうちに、宿場に着くのが当時の旅の要諦。これに従っておれば、旅籠の取捨はこちら次第なのである。旅籠も商売である。世慣れていない若造とみれば足元を見る。たちの悪い旅籠もかなりあったらしく、客の苦情が絶えなかったようだ。 で、文化元(1804)年、大坂の人の音頭とりで「浪花講」が組織された。安心して泊まれる旅籠の横断的な組合と思えばいい。 新吾ら3人は、江戸で蟠竜公の野望を打ち砕いた。帰国する日も近い。志保へのみやげは関屋の帯である。 『東海道五十三次の「エロパロディ」を描いた恋川笑山ゆかりの地「藤沢」…舞台に不器用な男と盗賊の攻防を描いた歴史小説』へ続く
岡村 直樹(ライター)