若村麻由美さんと岡本健一&圭人親子との関係は?【インタビュー/前編】
世界の注目を集める舞台に、若村麻由美さんが登場する。同時期に上演する『La Mère(ラ・メール) 母』には母として、『Le Fils(ル・フィス) 息子』には妻として。濃密な舞台空間の中で展開するのは、私たち世代の女性ならではの悩みと苦しみと怒り、そして哀しみ。心に残るのは、答えがでないままの、生きることへの切実な問いかけだ。
私に、できるの? って思いながらの挑戦です
『La Mère 母』のポスターで、若村麻由美さんは鮮やかな赤いドレスを着ている。劇中で着る衣装だ。でもこの赤い色は、華やかな赤ではない。実はとっても哀しい赤だ。 「そうなんです。実はとても意味のある、真っ赤なドレスなんです。この母親は娘が23歳、息子が25歳。始まってすぐ、こんな台詞があるんですよ。 『私はふたりの子どもの世話をした。いや3人よ、夫の世話もしたから』って。 これは多くの妻たちが共感できますよね。命がけで目の前の家事を、24時間365日やってきた。そして今、子どもは巣立ち、夫は自分に無関心。自分がもう誰にも必要とされていないことに気付いて愕然とし、そして街に出かけて、このドレスを買うんです」 母として妻として、精一杯頑張ってきたヒロインが突然感じる孤独と絶望感。そこで手にするのが、この赤いドレス。 「日本にも、空の巣(からのす)症候群という言葉がありますよね。子どもが成長して家を出て行った後、残された母親はどうしようもない孤独を感じる。 もちろんこのヒロインも、そうなることはわかっていたんです、頭の中では。子どもはいつか親離れしていくものだし、夫にも『あなたは好き勝手すればいいわ』って、強がりを言ってみたりして。 でもそれが、本人の心と体が不安定になる年頃と重なるものだから、悲劇なんですよ。ひとり取り残されるこの孤独を、どうすればいいの?っていう」
私たち世代の女性にとっては、他人事じゃないこの状態。これってまさに更年期クライシスだ。しかも同時に舞台の上のその姿は、自分の母親の姿とも重なって見える。 「母もこういう思いをしたのかな、自分は母親にこういう思いをさせたのかなって思いますよね。だから女性男性関係なく、このテーマは刺さるみたいです。母はこうだったのか、妻はこうなのかって身につまされる方が多いみたい(笑)。男性にもこの舞台、観て欲しいですね」 さらに若村さんは、同時上演される『Le Fils 息子』にも、息子の母親として舞台に立つ。東京芸術劇場のシアターイーストとシアターウエストで、同時期に2つの戯曲に挑戦するのだ。 『Le Fils 息子』は2021年に岡本健一&圭人親子が父と息子を演じ、そのときも若村さんが母を演じて、話題となった作品。 思春期の息子が不登校となり、父親は息子と対話しようとするが、ふたりの会話はなかなか嚙み合わない。今回の再演でも岡本親子が父子を演じ、若村さんが母を演じる。 「岡本圭人さんとは、昨年舞台『ハムレット』で共演して、今年1月の朗読劇『ラヴ・レターズ』では恋人役で、ずっと一緒なんです。毎回、会うたびに俳優として大きくなって、大きな花が咲いて、まるでひまわりみたい。前回よりもさらに素晴らしい息子を演じてくださると思います」 その岡本圭人さん、幼い頃からイギリスに留学し、大人になってからもアメリカの演劇学校に留学していた。語学が堪能で、今回、原作の戯曲を翻訳する作業を『ちょっとだけ手伝いました』と、製作発表の場で言っていた。 2021年に『Le Fils 息子』に主演したのが、彼にとっては本格的な演劇デビュー。会見で明かしてくれたそのときのエピソードが、ちょっと面白い。 「初日の幕が開く15分前に、僕の楽屋に父が来てくれたんです。『ここからお前の新しい人生、道が広がっていく。自分を信じて歩いていけ』って言ってくれた。うれしかったし、すごく心が満たされたんですけど、でもそれ、僕がこれから不安定な息子を演じる直前だったので(笑)。いやいや、満たされている場合じゃないぞって、気持ちを切り替えるのが大変でした。父が悪いわけじゃないんですけど」 父・岡本健一さんも、『Le Fils 息子』と『La Mère 母』の両方に出演。「この特別な2作品は、観た方の感情を揺さぶる、とてつもなく凄い作品になることを確信しています」というコメントを出している。 実力派俳優たちが、かなりの覚悟をもって臨む、すごい舞台になりそうだ。