トム・ヨーク、ソロの現在地。来日ツアーが控えるいま、Radiohead以外の音楽的探求を振り返る
飽くなき内的探求と解放をもたらす外への訴求
10月4日に発売された3rdアルバム『Cutouts』の収録曲“Zero Sum”と“Foreign Spies”は、“Wall of eyes”の有機的なサウンドと対極となるような楽曲だ。Radioheadが2000年にリリースした『Kid A』に近いエレクトロニックなサウンドをフィーチャーした『Cutouts』のムードを示す、象徴的な楽曲と言えるかもしれない。 『Cutouts』では個人的で内面的な葛藤に加えて、コロナ禍や紛争、戦争により混迷を極めて以降の社会的なテーマを皮肉めいた表現で扱っている。またAI時代における技術をビジュアル面で器用な手捌きで採用している。歌詞においては、明確に批判的な言い回しや断言を避けることによって聴き手を不安定な状態に置き、緊張を強いている。 とはいえトム・ヨークのボーカルは、内省的かつ不安定な感情を表現していても、実験音楽としてでなく、大衆に響くポップスとして音の配列の気持ちよさに帰結する。それがボーカリストとしてのすごみと言えるだろう。 音楽を通じて、個人的な感情と普遍的な問題の両方を交錯させること。ロックバンド的高揚だけでなく、音楽を通じてリスナーに対して深い問いかけを行なうこと。この両方に彼のミッションがあるのかもしれない。 そしてその探求心から、ソロや映画音楽の劇伴を通じて、アイデアの断片をスケッチしたような作品も披露する。Radioheadファンからすれば簡素で難解に聴こえたとしても、そこで描いた世界や到達した境地をすぐに実践してきたのだ。新しいアイデアを惜しみなく取り入れるが故に活動範囲がとりとめもなく見えるが、これまでのプロセスは一貫していると、私は考える。 長い年月をかけて、音楽シーンの頂点とも言えるポジションを確保したにもかかわらず、ひと所に留まることなく、さまざまな新しいアプローチにチャレンジし、それを生のパフォーマンスに還元する。この往来のたびに、自身の音楽を唯一無二のものにしていったのだと言えないだろうか。 そして2024年11月、日本での初となるソロツアーでは、トム・ヨークがこれまでに培ってきた音楽的な探求の成果と、最新のクリエイティブなエネルギーを体感できるはずだ。 齢50半ばにして、キャリアハイとなるような楽曲を生み出し続けるトム・ヨークが、晩節に向かう道筋で、これからどのような音楽的旅路を歩むのか。再びRadioheadでの活動に舞い戻るのか。さらなる個人的探求が続くのか。その岐路となるいまを見届けることができる最高の機会に、期待が高まるばかりだ。
テキスト by 冨手公嘉 / 編集 by 今川彩香