トム・ヨーク、ソロの現在地。来日ツアーが控えるいま、Radiohead以外の音楽的探求を振り返る
老成された初期衝動とThe Smileへの移行
コロナ禍で数多くのミュージシャンがライブ活動を停止を余儀なくされた2020年を経て、2022年の年明けには、Radioheadのメンバーであるジョニー・グリーンウッドと、トム・スキナー(元Sons of Kemetのドラマー)との新バンド「The Smile」を結成し、突如フェスティバルでパフォーマンスを行なった。 このバンドでトム・ヨークは、ボーカルに加えてベース、ギター、シンセを駆使し、より自由で実験的な音楽を展開してゆく。デビューアルバム『A Light for Attracting Attention』は、トム・ヨークがこれまで追求してきた音楽的要素を集約しつつも、よりダイナミックなサウンドが特徴的だ。複雑なリズム構成やトリプルギターによるアンサンブル、彼自身で手がけた奥行きのある歌詞に加えて、映画音楽から得たであろう空間を意識した音の使い方が明確に感じられる。 The Smileでは、従来のバンド編成の枠を超えた自由なサウンドを展開すると同時に、3ピースのバンドならではの初期衝動を感じさせるアグレッシブな楽曲も生み出している。言うなれば「老成された初期衝動」なのかもしれない。 The Smileはデビューアルバム『A Light for Attracting Attention』に続き、2024年に新たなアルバムを2枚リリース。3月にリリースされた2ndアルバム『Wall of Eyes』のなかでも注目を集めたのは“Bending Hectic”だろう。車が崖から落ちてゆく様子がスローモーションの映像のように浮かび上がる歌詞が印象的な楽曲だ。 筆者も今年ベルリンでThe Smileの公演を観たのだが、楽曲の後半1分近く鳴らされるストリングスの時間は、いまでも忘れられないくらい記憶に焼きついている。 2ndアルバムのタイトルにもなった“Wall of Eyes”は、軽やかなサウンドスケープと人間心理を描写する鋭いリリックが特徴だ。曲全体を漂う緊張感と、エレクトロニックなビートが織りなす不穏な雰囲気は、まるで暗闇のなかで視線を感じ続けるような感覚をリスナーに与える。MVでは常に外側から世界を見ている「壁の目」としての心情がうまく描かれている。