トム・ヨーク、ソロの現在地。来日ツアーが控えるいま、Radiohead以外の音楽的探求を振り返る
盟友ポール・トーマス・アンダーソンとの映像コラボで光るソロアルバム『ANIMA』
彼は2019年にリリースしたソロアルバム『ANIMA』で、カール・ユングが提唱した心理学用語をモチーフに政治的・社会的なテーマに深く切り込む。同時に、音楽的にはさらに実験的な方向へと進化していく。 このアルバムでは、特にアナログシンセサイザーを多用したサウンドが特徴的で、従来のロックやポップスの枠を超えた独自の世界観を打ち出した。このとき、ソロとして『FUJI ROCK FESTIVAL』に出演、WHITE STAGEのトリを飾っている。トム・ヨークがギターではなくベースの高音弦を触りながら、見事に歌い上げる姿が印象に残っている人も少なくないだろう。 『ANIMA』は、『サスペリア』での経験が反映された作品として位置づけることができるかもしれない。このアルバムでのトム・ヨークは映画音楽から得たインスピレーションをもとに、より抽象的な音楽表現に取り組んでいるとともに、リリックでは、断片的ではあるものの、具体的な社会的事象を追求しているように感じられる。 「Show me the money /Party with a rich zombie / Suck it in through a straw / Party with a rich zombie / Crime pays, she stays / In Kensington and Chelsea / And you have to make amends / To make amends to me お金(証拠)を見せて / 裕福なゾンビとパーティーをして / 全部それをストローで吸い込んで / 裕福なゾンビとパーティーを続けて / 犯罪は報われ、彼女はそこに留まり続ける / ケンジントン・アンド・チェルシー区(筆者註:ロンドンにある高級住宅街)で / そしてあなたは償わねばならない / 僕に償わねばならない」 - 『Traffic』より抜粋、筆者拙訳 『ANIMA』の制作過程では、映画音楽で培ったスコアリング技術や、リズムのミニマリズム、音響的な空間の使い方が大いに活用された。例えば、“Dawn Chorus”といった楽曲におけるボーカルのメロディーラインにはほとんど起伏がなく、語りに近いほど朴訥としており、ミニマルだ。シンプルなコードでありながら、後半のタイトルにもあるような鳥の鳴き声にエフェクトがかったような環境音、シネマティックなサウンドスケープが特徴的で、リスナーに強烈な視覚的イメージを喚起させる。 またビジュアル面では、ポール・トーマス・アンダーソン監督が『ANIMA』に収録された3曲を映像化。Netflixで公開され、話題をさらった。このショートフィルムは『ANIMA』の楽曲を視覚的に具現化したもので、トム・ヨークの音楽と映像の対話がさらに深化した作品と言えるかもしれない。このフィルムと『ANIMA』は、「映画本編とサウンドトラック」という主従関係ではなく、一つの芸術作品として機能しているのだ。