オードリー・タン「2025年には、プロソーシャルメディアという“新しい波”がやって来る」
世界中のビジョナリーや起業家、ビッグシンカーがキーワードを掲げ、2025年の最重要パラダイムを読み解く『WIRED』恒例の総力特集「THE WIRED WORLD IN 2025」より掲載。台湾初のデジタル発展省大臣を務めたオードリー・タンは、真摯な対話を育むデジタル空間をつくりだす努力が世界的に進むことに期待を寄せる。
プロソーシャルメディアという“新しい波”がやって来る:オードリー・タン──特集「THE WORLD IN 2025」
わたしたちの情報フィードやソーシャルメディアは、エンゲージメントを最大化するように最適化されたアルゴリズムによって大きく支配されており、最も扇動的なコンテンツが増幅されることも少なくない。すべての閲覧、「いいね!」やシェアが、わたしたちの行動を予測し誘導するために分析されるなか、わたしたちは市民的議論における能動的な参加者ではなく、監視と操作の対象となるリスクに晒されている。 こうしたなか2025年には、「プロソーシャル(社会志向的)メディア」と呼ぶべきものが採用されていくことで、より共感的で包括的なソーシャルネットワークの基盤づくりが始まることになるだろう。これはユーザー間の「アテンション(注目)」だけでなく、相互理解を促進するメディアだ。あらゆる声に力を与えながら、異なる意見に耳を傾ける能力を育むメディア。そして、市民がデジタル公共圏を積極的に形成できるようにするメディアなのである。 プロソーシャルメディアの重要な側面のひとつは、誤解を招く可能性のある情報に対して、ユーザーが協力してコンテクストを追加できる機能だ。これによってより情報に基づいた議論が促される。 例えばXの「コミュニティノート」やYouTubeの「メモ」のような取り組みは、パブリックな投稿に対してコンテクストを追加する機能を効果的に実装している。最近の研究によると、Xのコミュニティノートは誤解を招く可能性のある投稿のリポストの数を約半分に減らし、ユーザーが投稿を削除する確率を80%高める効果が確認されている。 この概念を、台湾では市民によるファクトチェック機関「Cofacts」が発展させ、プライべートグループ内のメッセージにもコンテクストを追加できるようにしている。シビックテックコミュニティ「g0v」によって2017年に発足したこのプラットフォームは、19年にタイでも採用された。コーネル大学の研究によると、Cofactsは誤情報に関する問い合わせに対して、プロのファクトチェックサイトと同等の精度でより迅速な対応を実現できているという。