スマホで「聴く読書」、はっきり見える大活字本…「読書バリアフリー」多様な図書で楽しみ広がる
視覚や肢体に不自由があっても読書に親しめる環境をつくる「読書バリアフリー」の取り組みが広がっている。多様な形の図書が生まれ、それぞれの人に応じた読書の仕方が選べるようになってきている。(鶴田明子) 【写真】黒と白でコントラストをはっきりさせた大活字本(左)
誰もが読書できる社会に
「昔は読書を諦めたこともあったけれど、最近は『聴く読書』を楽しんでいます」
福岡市の福岡視力障害センター教員、安田晴幸さん(53)が、スマートフォンを片手にほほ笑んだ。安田さんは生まれつき弱視で紙の本を読むことは難しいが、インターネット上の「サピエ図書館」を使い、小説などを音声で聴いている。
「知識」を意味するラテン語に基づき名付けられたサピエ図書館は、全国のボランティアが小説や児童文学、実用書などを読み上げた録音図書計約13万タイトルを所蔵。スマートフォンやパソコンで再生でき、週刊誌は発刊後、早ければ1週間程度で利用できるという。全国視覚障害者情報提供施設協会(大阪市)が運営する。
使えるのは、紙の本の読書が困難で、サピエに登録している図書館を利用する人。九州・山口・沖縄には全県に登録施設がある。安田さんは「これからもいろんな本を読んでいきたい」と話す。
障害の有無にかかわらず誰もが読書をできる社会を目指し、2019年6月、「読書バリアフリー法」が成立した。視覚障害者らが利用しやすい媒体を拡充することなどを明記した。
読み書きに困難が生じる学習障害「ディスレクシア」の人や、身体障害でページがめくれない人への対応も求められるようになり、全身の筋力が低下する難病を患う作家市川沙央さんが、昨年芥川賞に輝いた際にも重要性を訴え、注目を浴びた。
ボランティアが朗読や布絵本
こうした流れを受け、媒体やサービスが充実してきている。
長崎県大村市で同市と県が共同運営するミライon図書館では、19年から対面朗読サービスを提供。専用室を2部屋設け、地元のボランティア団体のメンバーが所蔵本などを読み上げる。
各地の図書館には、大きな字で書かれ体裁を読みやすく整えた「大活字本」や、知育にも用いられる「布絵本」などが所蔵されている。福岡県立図書館(福岡市)では、大活字本約3200冊を貸し出し、視力が落ちてきた高齢者からも喜ばれているという。布絵本はボランティアグループが作った約150冊を用意。同館はバリアフリー図書の体験会も定期的に催し、「今後も当事者の意見を聞きながら、何ができるかを考えていく」としている。