専門店が続々登場!定番の「おにぎり」がブームになった理由
【あの食トレンドを深掘り!】90年代に流行した「ティラミス」、数年前に話題になった「おにぎらず」、直近では社会現象にもなった「タピオカ」など、日々生まれている食のトレンド。なぜブームになったのか、その理由を考えたことはありますか? 作家・生活史研究家の阿古真理さんに、その裏側を独自の視点で語っていただきました。 ◇ ◇ ◇
おにぎりが「ごちそう化」して人気に
私が大学生だった1990年、神戸・須磨で海水浴を楽しんだ帰り、三宮で「疲れて小腹が空いたが、食べたいのは軽食でケーキじゃない」と思って目の前のビルを見上げると、4階窓に掲げた「おにぎりバー」の文字を発見した。あのとき食べたおにぎりはおいしかったが、その後長らく、おにぎりを手軽に食べられる飲食店は見かけなかった。 今は中途半端な時間帯に「おにぎりを食べたい」と思ったら、コンビニやスーパーだけでなく、おにぎり専門店や米屋の店先など、さまざまな選択肢がある。昨年は、ぐるなび総研の「今年の一皿」でもゴージャスな具材を使う「ご馳走おにぎり」が選ばれるほど、外食・中食のおにぎりがブームになっていた。もうじき、おにぎりを楽しみたい花見やピクニックの季節もやってくる。そこで今回は、おにぎりブームの変遷をたどってみたい。 『おにぎり読本』(ごはん文化研究会編、講談社)によると、今は定番となった海苔で巻くおにぎりが登場したのは、海苔の養殖が始まった江戸時代だ。主に家庭で作られてきたせいか、当たり前の地味な存在だった時期が長い。最初のブームは、1983年にセブン-イレブンが「手巻おにぎりシーチキンマヨネーズ」を出しヒットしたときと思われる。『コンビニ おいしい進化史』(吉岡秀子、平凡社新書)によると、1974年に1号店を開業したセブン-イレブンがおにぎりを売り出したのは、1978年である。昔、ドキュメンタリー番組の『プロジェクトX』(NHK)で、セブン-イレブン1号店の来店数が増えたきっかけは、おにぎりを販売し始めたことと紹介していた。もし、おにぎりを販売しなければ、コンビニは社会のインフラにまで成長することはなかったかもしれない。 コンビニおにぎりはその後も進化を続け、2000年代に高級化・本格志向を各社が競い合ってさらに存在感を高めている。大ヒットしたのは、2018年にローソンが出した「悪魔のおにぎり」で、一時は同社のおにぎり販売数ナンバー1にまでなった。それは、白出汁で炊いたご飯に天かす、天つゆ、ゴマ油などを混ぜたおにぎりである。「無限ピーマン」のレシピの大ヒットなど、病みつきになる味が人気だった時期だ。 米屋のおにぎりは、おそらく1979年に販売を始めた東京・自由が丘の「玉川屋」がパイオニア(2022年におにぎりは販売終了)。2000年代、跡継ぎがリニューアルしておしゃれになった米屋が各地に出現した際、おにぎりを売り出す店が目立った。 おにぎり専門店では、東京の最古参が1954年に開業した浅草「宿六」。ここ数年、行列店としてくり返しテレビで取り上げられる大塚「ぼんご」は1960年。駅ビルなどで展開するテイクアウトチェーンの「おむすび権兵衛」は、1991年に1号店が開業した。最近は、続々とおにぎり専門店が登場している。 家庭料理としてのおにぎりは、2015年に大ヒットした「おにぎらず」が画期的だった。具材は何でもよく、握らなくてよいことが人気の理由である。その後、2018年頃にいろいろなおかずを混ぜ込んだ「ごちそうおにぎり」のレシピがヒット。 おにぎりで完結する食事が人気になったのは、コンビニや専門店が、さまざまな具材を提供してきたことが背景にありそうだ。また、グルメ化が進んで、定番以外の具材を好む嗜好の変化もあるかもしれない。そうしたいくつものヒットが続いて、外食・中食でいくらやウニといったゴージャスな具材を売りにする外食・中食のごちそうおにぎりが、大ヒットしたのである。