キャンセル落ちユーザーを再購入に導く新たなマーケティング「キャンセルリカバリー」とは? TシャツECの後藤社長に聞く
後藤氏:注文件数や出荷件数が多いお客さまから出荷前の段階でキャンセルの要請があった場合、出荷をきちんと止めること。キャンセルの要求を受け付けていない事業者が多いが、Tshirt.stではそれはしない。事業を円滑に運営していくためには、お客さまが「いらない」と言ったものは出荷前に止めることが大切だと考えている。
自分は代表取締役として企画、商品開発、SNSアカウント運用などEC事業全体の統括と、バックヤードの効率化に注力している。 ――EC業界での自身の強みや、成果をあげた事柄、実績について教えてほしい。 後藤氏:たとえば、自分でカートをカスタマイズしてバックヤードの改善に努めている。EC事業には、2000年前後の国内黎明期からこれまで24年間携わってきたので、カートもさまざまなタイプを運用してきた。「Tshirt.st」で運用しているカートは、ECプラットフォームShopify(ショッピファイ)が提供する「Shopify Plus」。2018年からは上位プランで運用している。 2023年には、Shopifyが導入企業のなかから、一定の実績を満たした事業者を讃える「Shopify Milestones(マイルストーン)」の「シルバー」を受賞した。「Tshirt.st」の受注規模を実績として評価いただいた。実績は今後さらに伸ばしていきたい。 これまでに積み上げたEC事業運営のノウハウは、外部と共有・公開していきたいし、一部はサービス化していきたいと考えている。その一環として、別会社のリターンズで、「Tshirt.st」で実装している自動キャンセルの仕組みを、他のEC事業者も利用できるようにしたSaaS型サービスを外販している。 ■ バックヤードの改善がもたらす3つのメリット ――EC事業における自身の実績やチャレンジについて教えてほしい。 後藤氏:取り組んでいるのはバックヤードの改善、特に仕入れや補充など在庫に関連する対応のシステム化だ。一般的に、人間でないと判断できない仕事だと思われがち。しかし、ECの長期的な事業運営には、判断をシステム化していくことが重要だと考えている。EC業界全体で見ても課題がある部分だと思う。「Tshirt.st」では仕入れの自動予測などすでに在庫処理のシステム化ができているので、他業態でも使えるようにシステム化し、支援できるサービスの提供を準備している。 ――24時間365日のキャンセル受け付けや、在庫処理のシステム化といったバックヤードの改善がもたらすメリットとは。 後藤氏:大きく3つある。まず、現場担当者の負担軽減につながることだ。 2番目に、お客さまに喜んでもらえること。バックヤードは注文が発生した後、お客さまとののやり取りが続く業務。バックヤードの改善はCXの改善にもつながる。結果として、お客さまに喜んでもらえることにもつながっていく。 3番目に、一度注文をキャンセルした顧客のうち6~7割が再購入につながること(「Tshirt.st」の実績値)。24時間365日のキャンセル受け付けは、ECモール、他社のECサイトではまだほとんど実現できていないと思う。 ■ バックヤードの改善を通じて見えてきたECの本質 ――海外は日本に比べて返品率が高く、たとえば米国は小売業全体で18%程度、ECでは20%超となっており、キャンセルリカバリーを意識している事業者も多い。一方で、国内は小売業全体で見て3~5%程度、ECでは6~7%程度となっており、キャンセルリカバリーの実例は少ない。Tshirt.stが取り組もうと思った理由を教えてほしい。