なぜコートジボワール戦で先発抜擢を受けた久保建英は機能しなかったのか?
勝利の余韻が残る試合後に行われたオンライン会見で、森保監督は南野との交代で最初にベンチへ下げた久保についてこう言及した。後半からコートジボワールが[3-4-3]から[4-3-3]へシステムを変え、前半にも増して攻勢を強めてきたなかで切られた交代カードだった。 「いまもっている力を、プレーしている時間内で発揮してくれたと思う。これからまだまだ体力的にもつけていってもらいたいが、すべてを出し切って全力で戦ってくれた部分では満足している」 指揮官の言葉通り、身体能力の高さで日本を凌駕するコートジボワール相手に奮闘した。例えば前半13分には左コーナーフラッグ付近でボールを奪い合った流れで、ゴールライン後方の看板に衝突。そのまま倒れ込み、競り合ったMFケシエ(ACミラン)が心配して駆け寄る場面もあった。 ただ、森保監督が言及した「まだまだ体力的に――」は、ビジャレアルでまだ先発を果たしていない点とも関連している。プレー時間が短くなれば、必然的にゲームに必要な体力は失われていく。5試合を終えたリーグ戦で、すべて途中出場に終わっている軌跡を自力で変えていく必要がある。 ビジャレアルでは右サイドにナイジェリア代表サムエル・チュクウェゼが、トップ下にはスペイン代表のジェラール・モレノがチーム内のライバルとして立ちはだかる。ウナイ・エメリ監督から左サイドでのレベルアップを求められているなかで、くしくも代表でも左サイドで先発を果たした。 右サイドでチャンスを演出した伊東にしても、トップ下でフル出場した鎌田にしても、簡単に得意とするポジションでの先発を手にしたわけではない。惜しいシュートを放った鎌田はパスがほしいと思った場面で来なかったことが少なくなかったと、コートジボワール戦後にこんな言葉を残している。 「僕も代表でまだ6試合目だし、トップ下で出るのもなかなかなかったというか、今日が初めてぐらいだったので、周り(の味方選手)との関係もまだまだ浅いと思っています」 だからこそ、たとえ不得手とするポジションでも、出場機会を得たときに結果を残す必要がある。シュートチャンスで言えば、右サイドを崩してクロスが放たれたときには、左サイドの選手は相手ゴール前へ詰めるタスクを負う。果たして前半6分と9分に伊東が、31分にはボランチの柴崎岳(レガネス)が右サイドからクロスを送ったが、久保が詰めるタイミングは遅かったと言わざるをえない。 実績を積み重ねて指揮官の信頼を勝ち取り、自らの力でチーム内の序列を押し上げていく作業はビジャレアルでも、そして日本代表でも変わらない。誰よりも久保自身が、今回のオランダ遠征初日にオンラインで取材対応したときにこんな言葉を残していた。 「誰も立場を約束された選手はいないと思いますし、少なくとも自分はその一人ではないので」 つまり、不完全燃焼の思いは得意とする右サイドでプレーできなかった61分間に対してではなく、先発というチャンスを生かせなかった自分自身へと向けられていた。日本代表は11月の国際Aマッチデーでもヨーロッパでの活動を予定している。限られた時間のなかでまずはビジャレアルで置かれた立場を自分の力で変えて、より成長した姿を森保監督にアピールすることから逆襲が始まる。 (文責・藤江直人/スポーツライター)