東日本大震災で亡くなった外国人たちの歩みから見出す、「ひとが生きる理由」
忘れられた「大事なこと」
欲を言えば、もう少しディテールがほしいところもあるし、著者自身の思いや動きを抑制したほうが作品の完成度を高められたのではないかと同業者的な視点で感じるところがある。 ただ、あの日から13年間という年月を経てなお、震災をテーマに書き続けたいと願う著者の意思は各章の行間からも滲む。 物事には忘れていいことと忘れるべきではないことがある。心につらい事実を忘れられないでいることも悲劇だが、大事なことなのに忘れられていることも悲劇だ。著者は後者に関心があるのだろう。 本書の後半、著者が取材のさなかに考えていたことが明かされる。 〈人は何のために生きるのか──。そんな果てしない命題を、私は職業記者になってからずっと追い続けてきたように思う〉 その答えを著者は「おぼろげ」に記している。 それがどういうものだったかはここでは記さない。ただ、それは著者の答えであると同時に、読者にも考えることを求めているように映る。 それが震災から13年後に出された本である。
ジャーナリスト 森健