「痛くない親知らず」をそのまま放置するとどうなるか…「今すぐ抜いたほうがいい親知らず」の判断基準
親知らずを抜かずに放置するとどうなるのか。医師の各務康貴さんは「口臭や虫歯、歯周病の原因になるだけでなく、生命を脅かす細菌感染を引き起こしかねない。これらは気づかないうちに進行することがあるため、抜くべき親知らずを放置するのはリスクが高い」という――。 【図表をみる】親知らずで生じる悪影響 ■親知らずを甘く見てはいけない 一般的に、親知らずは10代後半から20代前半の間に生え始めますが、大人になってから悩まされている方もいらっしゃるのではないでしょうか? 30代や40代になって生えてくる方や、顎や歯の変化により埋まっていた親知らずが現れてくることもありますので、若い方だけの悩みではありません。 親知らずは、痛みがないからといって放置しておいていいというわけではありません。むしろ、無症状のまま静かに進行し、さまざまな健康問題を引き起こす可能性があります。 最悪のケースでは、親知らずの炎症が周囲の組織に影響を及ぼして手術が必要になる場合や、死に至ってしまうようなケースもあるため、軽く考えないほうがいいでしょう。 ■周りの健康な歯を道連れに… まず、親知らずが位置する場所は歯ブラシが届きにくいため、磨き残しが増え、口臭の原因となったり、気づかないうちに虫歯が進行したりするリスクがあります。その影響で周りの健康な歯も虫歯になる危険性が高まります。 次に、前回解説した歯周病の進行にも注意が必要です。歯肉の腫れや出血に気づかない場合でも、徐々に歯と歯肉の境目から菌が入り込み、顎の骨を溶かしてしまうことがあります。これが進むと健康な歯も抜けやすくなってしまいます。 さらに、親知らずの生え方によっては顎骨に圧力がかかり、変形したり歯並びが悪化する事もあります。顎関節症の可能性も高まるため注意が必要です。
■口腔内から心臓や脳の病気に発展する 親知らずを放置することには、時として命に関わる重大な健康リスクがあります。 親知らずが斜めや埋まった状態であると、周囲の歯茎に圧力をかけ、細菌感染が生じることがあります。この状態を「智歯周囲炎(ちししゅういえん)」と呼び、親知らずの周りの歯茎が炎症を起こし、痛みや腫れが生じることがあります。 智歯周囲炎を放置すると、感染が深い部分に広がり、顎の骨や他の組織にも影響を及ぼす(頬部蜂窩織炎や縦隔炎)可能性があります。 私がいた救急の現場では、菌による炎症と口腔内から菌が入り込むことにより、気づかないうちに心臓内に菌の塊ができて入院し、心臓外科で手術となった例もありました。菌の塊が脳の血管に流れ込み脳梗塞などを引き起こす可能性が高い症例でした。 ■生命を脅かす「敗血症」を引き起こすリスク また感染が全身に広がると、生命を脅かす「敗血症」といった重篤な状況を引き起こすことがあります。敗血症は、体が感染に対抗しようとする過程で、全身の臓器に深刻なダメージを与え、臓器機能不全を引き起こし命に関わる危険が生じることになります。 極端な例と思われるかもしれませんが、これくらいの感染ならと思っていても、あっという間に重症になり、命の危険に繋がる場合を見てきました。 われわれが提供しているマウスピース歯科矯正「hanaravi(ハナラビ)」の患者の中にも、歯を移動するスペースを確保するためや奥歯を押すことで歯並びに影響を与えている場合には、歯科矯正を実施するまえに、親知らずを抜かないと治療が始められないケースも度々あります。 それ以外にも、いろいろな場面で抜歯をするのか? それとも抜歯しないのか? の判断を迫られる場面があります。それらはどうやって決めるべきでしょうか。