「クリスマスっぽい」 クリスマス広告 はもはや時代遅れ? デジタルがクリスマスをどう変えたのか
記事のポイント 欧米圏ではすっかり定番となっている、リテーラー各社のクリスマス広告。ジョンルイスに限らず、多数のブランドが個性的かつ多様なアプローチで競合している。 ブランドはデジタルコンテンツやソーシャルメディアキャンペーンを通じて、異なるプラットフォームで消費者との接触を試みており、かつてのクリスマス広告のようにテレビ広告への全振りは少なくなっている。 クリスマス広告の公開は単なるイベントではなく、ビルドアップ型の戦略へと変化しており、キャンペーンは早期から開始され、消費者の関心を長期的に引きつけるよう工夫されている。 愛らしい子ども。美しい映像。おなじみのサウンドトラック。すべてそろっているのに、クリスマスツリーがない? その代わりが「スナッパー」という名のハエトリソウ? 国民が期待するクリスマスとはちょっと違う展開だ。しかしそれが、英百貨店チェーンのジョンルイス(John Lewis)が制作した今年のクリスマス広告なのだ。 とはいえ、広告の冒頭は十分にクリスマスっぽい。男の子が植木鉢に種を植え、クリスマスツリーの成長を心待ちにする。ところが、物語は古典的なモミの木から大きくはずれ、どちらかといえば「リトルショップオブホラーズ」の様相を見せはじめる。クリスマスツリーだと思って育てていた植物は、虫を捕食するハエトリソウだったのだ。最終的に、物語は晴れやかな祝祭気分で幕を閉じる。 しかし、この意外な展開は多くの人に首をかしげさせた。忘れがたい作品を作りたいという意図は分かるが、ジョンルイスの場合、それはどうやら裏目に出たようだ。
共感を呼ぶ広告とは何か
クリスマス広告のシーズンはジョンルイスに始まりジョンルイスに終わるものではもはやない。彼らの広告はいまや多数のなかのひとつにすぎず、その多数はかつてないほど多様で個性的だ。 誰もがジョンルイスをまねて、いかにもクリスマスっぽいセンチメンタルな広告を作る時代は過去のものかもしれない。そして実のところ、それは衝撃でも何でもない。ジョンルイスが初めてクリスマス広告を出した2007年以来、世界は大きく変容した。そこにあるのはかつてないほどの亀裂と分断である。その結果、万人の心に響くものを作ることは、昔よりはるかに難しくなった。 今日、クリスマスシーズンの広告スペースは30社を超えるブランドがひしめき合い、クリスマスのあるべき姿について、それぞれ独自の視点で広告を展開している。そしてそれはテレビ広告に限った話ではない。各キャンペーンと紐付いたキャラクター商品なども、買い物客を店内体験に誘導するという重要な役割を担う。たとえば今年の場合、独ディスカウントチェーンのアルディ(Aldi)では「ケヴィン・ザ・キャロット」が、マークス&スペンサー(Marks & Spencer)の食品広告では「クリスマスの妖精」が、そしてジョンルイスではハエトリソウの「スナッパー」がこの役割を務めている。 メディアエコロジストで「ザ・マイヤーズ・リポート(The Myers Report)」の会長を務め、メディアヴィレッジ(MediaVillage.org)の創設者でもあるジャック・マイヤーズ氏はこう話す。「クリスマスCMに対する期待感やわくわく感は健在だが、以前ほど顕著ではないかもしれない。その背景には、クリスマス広告の開始時期が前倒し傾向にあることや、デジタルコンテンツの飽和状態などがある。それでも、巧く作られた、ノスタルジックで心温まる広告のなかには、いまも変わらず国民的な高揚感を沸き立たせるものがある」。 クリスマス広告はどこかぎこちない思春期を迎えているようだ。試行錯誤を繰り返し、加速度的に進化する環境で、自らのアイデンティティを見つけようと煩悶する。マーケターたちは既存の境界線を押し広げながら、クリスマスの伝統そのものと同じくらい多様なオーディエンスがいる世界で、共感を呼ぶ広告とは何かを模索している。創造性が支配し、予測不可能が当たり前の時代の到来だ。 「かつてはテレビ広告にすべてをつぎ込むのが定石だった」と、デジタル資産管理(DAM)を支援するビンダー(Bynder)でグローバルブランドとコミュニケーションの責任者を務めるスティーヴ・ヴァイノール氏は話す。「今はそうではなく、プラットフォームを構築し、メッセージを構築し、それを軸にソーシャルキャンペーンを構築しなければならない。アクティベーションも必要だし、そこには商品化などのチャンスもある」。