広島の流れを変えた鈴木誠也のサイン見逃し事件
広島が札幌ドームで連敗、シリーズの星勘定は2勝2敗のタイに戻った。機動力を使い、相手の隙につけこむ嫌らしさが広島野球の醍醐味で、開幕戦では大谷翔平をそれで潰したが、この日は大事な局面でらしくない「サイン見逃し」という初歩的なミスを冒し、それが流れを変え勝敗を左右した。 問題のシーンは1-1で迎えた8回だ。代わった日ハムの谷元から新井が四球を選び出塁した。広島ベンチはここを勝負と見て、新井に代えて代走・赤松を一塁へ送りだす。続く打者は、鈴木誠也。レギュラーシーズンで鈴木が決めたバントは、わずか3つ。“神っている”と呼ばれたほど打ちまくった鈴木へのバントのサインはほとんどなかったが、1点ゲーム、しかも鈴木のシリーズの打率は1割台で、この日も2打席続けて外野フライに終わっていた。当然、送りバントという選択肢が考えられた。 しかし、その初球。鈴木はフルスイングの空振りをしたのである。鈴木がすぐさま三塁ベースコーチを見ると、河田コーチは鈴木を呼び寄せて、直接、サインを確認した。2球目は送りバント。だが、ファウルになった。2ストライクとなり、仕方なくヒッティングに切り替えたが、鈴木はポーンと打球を打ち上げた。自分のミスへの悔しさからか、バットをグラウンドに思い切り叩き付けた。 試合後、緒方監督は、「作戦上のことは言えないが、大舞台で若さが出たのかな。ミーティングでは、そのあたりをしっかりと確認してあったんだけどね。ただサインを出しているのは私なんだから私の責任」と鈴木を責めることはしなかった。だが、その初球にバントのサインが出ていたことを暗にほのめかした。 鈴木も、「まだ試合は続きます。(このミスを)取り返したい」と唇を噛んだ。 結局、エルドレッドも続けてライトフライ。2アウトから赤松を走らせたが、途中出場の市川が抜群のスローイングを見せて、得点圏へ走者を進めることができなかった。 すべては、“たられば”で、たとえ鈴木のサイン見逃しがなかったとしても、勝ち越し点を奪えたかどうかはわからない。だが、そのサイン見逃しの“負の連鎖”は、その裏のジャクソンのコントロールミスへとつながり、中田を歩かせ、レアードにバックスクリーンの左へ試合を決める2ランを浴びることになった。 シーズン通りの広島野球がテーマなら、初めからバントでなく、強行という策もあったのかもしれない。鈴木がサインを見逃すことの戸惑いにもつながらなかったのかもしれないが……。 近藤の平凡なフライを万歳してしまうタイムリーエラーも勝利で帳消しにした日ハムと、鈴木のサイン見逃しのミスをカバーしきれなかった広島。シリーズの潮目が変わりつつあることは確かだが、以前、緒方監督は、「野球はミスをするスポーツ。それをカバーする勢いがあれば関係ない」とも語っていた。 「とりあえず、これでタイ。明日またしっかりと戦って勝って広島に帰る」 明日27日の第5戦には、初戦で大谷に投げ勝ったジョンソンを中4日で先発マウンドに送る。