「健常者とも互角に対戦」目が不自由でも楽しめるチェスや囲碁 アジアパラ大会の競技に…でも日本では選択肢乏しく盲学校ではオセロばかり
盤上で駒を動かして遊ぶボードゲーム。囲碁や将棋、チェス、オセロなどが代表例だ。目が不自由な人でも遊べるようにバリアフリー化が進んでおり、健常者と同じ土俵で対戦できる。アジアパラ大会では2018年からチェスが視覚障害部門の競技となった。ただ、日本国内では視覚障害者向けのボードゲームは、高額な価格や生産打ち切りなどの理由で普及しておらず、盲学校などではオセロ風ゲーム(リバーシ)ばかりが親しまれているという。「バリアフリー」や「共生社会」の実現を掲げて久しい先進国のはずだが、ボードゲームで遊ぶ選択肢が乏しいのが実情だ。(共同通信=稲本康平) 【写真】元球児が開発した「巨大野球盤」が生む思いがけない奇跡 車いすのおばあちゃんが立ち上がり、障害のある子は本気で悔しがった
▽視覚が閉ざされていても…触って駒の配置を把握するチェス 10月22日、中国・杭州で開催されたアジアパラ大会の開会式。会場となった「杭州奥体センター競技場」は杭州で親しまれているキンモクセイを表現したオレンジ色に彩られた。3階建ての観客席は多くの観客で埋まり、熱気に包まれた。 チェスは東南アジアなどで人気が高く、2018年にジャカルタで開かれた前回アジアパラ大会から視覚障害部門の競技として採用された。視覚障害者向けのチェスは、触って得た情報から盤面の状況を思い浮かべられるよう工夫が施されている。突起の有無で白黒の色を判別できる駒を使用し、盤の各マス目の穴に差し込んで固定できるようになっている。キングやクイーンなど駒の形やルールは、一般的なチェスと変わらない。 杭州大会でチェスの競技会場は静寂と緊張感に包まれ、駒を動かす音だけが響いていた。選手らは駒を触ることで配置をイメージする。試合が進むにつれて駒の配置は複雑になり、選手が駒を触る回数も増えていく。両手の指をしなやかに、流れるように動かす。視覚が閉ざされている選手が精神を研ぎ澄まして思考を巡らせる様子は駒と会話しているように見えて魅了された。
▽障害者向けチェスがほぼ流通しない日本、囲碁や将棋も高価格 杭州大会のチェス競技には13カ国の約80人がエントリーしたが、日本人の出場はゼロだった。視覚障害者向けのチェスは、国内ではほとんど流通していないことがその一因だ。 日本には視覚障害のある人は30万人以上いる。しかし目の不自由な人でも遊べるボードゲームは、チェス以外でもなかなか普及が進んでいない。その理由について、ある大手玩具メーカーの担当者は「健常者に比べて人口が少なく、製品の企画や開発が簡単ではない」と説明する。 ボードゲームを多数取りそろえる都内の大型専門店で、記者が「視覚障害があっても遊べるものはありますか」と尋ねてみると、案内してもらえた商品は、オセロ風ゲームと後段で紹介する六面立体パズル「ルービックキューブ」2点だけだった。 囲碁や将棋といったメジャーなボードゲームさえ店頭に置かれていないのはなぜか。日本視覚障害者団体連合(東京)などによると、視覚障害者向けの囲碁は製造数が少なく、近年まで1セット約1万3千円で販売されていた。将棋については1セット2万5千円ほどで販売されていたが、製作していた職人が高齢などを理由に引退し、2022年に製造が打ち切りとなった。