横浜市「26万人の教育ビッグデータ」を本格活用へ 「ラボとアカデミア」で新しい学びや環境を創造
「教職員・専門家・企業」の3者で共創
ただ、データ活用の際に必ず問題となってくるのが個人情報の取り扱いだ。横浜市では、スタディナビの導入前にほとんどの保護者から同意を得ることができた。同意できない家庭については、例えばオンラインで実施している市の学力・学習状況調査は紙でも受けられるようにするなど、意向を尊重する形で個別に対応しているという。 「現状、福祉系のデータは連携しておらず、スタディナビは校内の利用に限定しています。今年度中には端末の持ち帰りができるようにする予定ですが、シングルサインオンかつ児童生徒の個人情報とアカウントの照合を学校以外ではできないようにするなど、学校外でもセキュアに使える準備はすでに整っています」と、丹羽氏は説明する。 集めた教育ビッグデータを活用するため、今年9月からは「横浜教育データサイエンス・ラボ(以下、ラボ)」という取り組みも始めている。若手~中堅の学校教職員と大学の研究者、データ分析などの専門技術を持つ企業関係者の3者で共創していく座組みとなっており、扱うテーマによってメンバーは変動するという。 「こうした立て付けによるデータ分析の取り組みは本市が初めてではないか」と丹羽氏は話す。第1回のラボには、教職員15名程度と、慶応義塾大学、横浜市立大学、横浜国立大学、千葉大学、名古屋大学、OECDの職員、内田洋行、NTT東日本などが参加した。 「本市は2005年から独自の学力・学習状況調査を実施して約26万人の児童生徒のデータを集めてきており、これまでアウトプットとしてはグラフ化した分析チャートを各校に配布してきました。ただ、学校内では必ずしも有効活用されていないことが課題となっており、専門的な知見やスキルを持つ大学や企業の関係者と一緒にデータを解析していく必要があると考えました。下田康晴教育長が言う『データは子どもたちに還元されなければならない』という前提に立ち、ラボを通じてデータの利活用の可能性を検討していきます」 ラボでまず取り上げたテーマは、「算数科、数学科の学力と意欲の分析」と「子どものこころの変化をとらえ、安心な学びの環境をつくる『横浜モデルの開発』」だ。 「本市の学力・学習状況調査は2022年からIRT(項目反応理論)型に変えたのですが、これにより1人ひとりの学力の伸びが把握できるようになりました。例えば、文科省の全国・学力学習状況調査においては、横浜市の児童生徒の正答率は全国平均と同等かそれより高いのですが、IRT調査で見ると伸び悩んでいる子が相当数いることがわかりました。それまで教職員たちが『算数から数学への移行段階でつまずく子が少なくない』と何となく感じていたことが、このIRT型調査を始めてからデータで可視化されるようになったんですよね。そうした経緯もあり、教職員の知見を生かしてデータを分析し、算数や数学でつまずく要因や意欲の背景などを明らかにしたいと考えているのです」 子どもの心の分析をテーマとした背景としては、コロナ禍がターニングポイントになったという。 「コロナ禍以降、精神的な不調を訴える子どもたちが全国的に増えました。とくに家庭生活よりも学校生活が子どもたちにストレスを与えることがわかってきています。それが不登校などさまざまな課題につながっているため、子どもたちのメンタルヘルスを向上させ、安全な学びの環境をつくっていきたい。そのために、横浜市立大学医学群と共同で研究を進めることとなりました」