中学受験「前受け」入試の合格・不合格が与える「想像以上に大きな影響」
「お守り」以上の効果
前受けはお守りというが、それ以上の効果があるようだ。孝多は午後に第2志望の立教新座の過去問を解くと、合格最低点を上回る点数をはじめて出すことができた。公園でキャッチボールをして身体を動かすと、メインの塾と別に通っている個別指導塾のトーマスで補習を受けてから塾に向かった。 受験した学校やその結果については、友だち同士で話さないように塾の先生からいわれている。雑音は勉強の邪魔になるだけだ。孝多にもテストの結果は誰にもいわないように注意したが、表情に出てしまうのは避けられない。 帰ってきてからも、孝多はご機嫌だ。夕食後も嫌がらずに勉強している。同じクラスにもう一人佐久長聖を受験した生徒がいるが、B特待での合格だったという。入学金だけの免除だ。いつもは孝多より成績上位らしく、その子に勝ったのが勲章のようだった。 数日後のことだ。ぼくが久しぶりにトッパンホールに向かったのは、もう孝多が一人で勉強できると考えたからだ。大学時代の友人が誘ってくれた、久しぶりのクラシックコンサートだった。孝多には、過去問を解かせることにした。 演奏の休憩時間に防犯用の遠隔操作カメラを見てみると、孝多がソファで本を読んでいる。過去問が終わって歴史の本でも読んでいるのだろう。じっと食い入るように本を開く姿は、真剣そのものだ。
「このまま行けば受かるぞ!」
夜9時ごろ帰ってから採点すると、300点満点で200点を越えている。2回連続で、合格者最低点を上回る成績だ。 「すごいじゃないか。このまま行けば受かるぞ」 「そう?」 意外にも、孝多の反応が素っ気ない。実感がわかないのだろうか。気になるのは、まだ字が汚いことだ。採点者が読めなければ、減点になりかねない。勢いはあるが、緊張感が途切れているのかもしれない。 相変わらず、平均を下回って足を引っ張っているのが理科だ。理解が十分でない分野がわかったことは、幸運だったと考えるべきかもしれない。家庭教師の先生に見てもらう時間を増やすことにした。今できることはどんどんやっておかないといけない。 翌日も、ぼくは朝から外出する予定が入っていた。午前中は孝多が国語の宿題を解き、その採点は妻に任せた。午後は妻も仕事なので、夕方に塾に行くまではひとりで過去問を解いてもらう。