「こころが男性どうし」の“ふうふ”が作る新たな家族の形「実はいま、きみちゃんは妊娠中で…」子どもの笑顔を守る共感の輪
午後7時。ちかさんにとって最後の営業時間が始まりました。魔ァ子さんの「開けます、おねがいします」という掛け声と同時に、1組目のお客さんが来ました。 数年来の常連客たちからは、「ちかちゃんに氷を入れてもらうのも、最後だな…」と寂しそうな声が漏れ出します。
店のスタッフ全員とお客さんによる、ちかさん最後の乾杯です。 「ちかちゃん卒業おめでとう!かんぱーい!!!」 てる子さんの掛け声とともに、グラスを合わせる音が大きく響きました。
お客さんとの会話も盛り上がってきたころ、てる子さんが店の奥から花束を持ってきました。魔ァ子さんから手渡されます。 仲間からのサプライズに、ちかさんは感激したような表情を浮かべました。 てる子さんが選んだ紫の花には「思いや気持ちを言葉で伝える」という意味があるそうです。 「言葉で伝えるのが苦手なちかちゃん、自分の思いを伝えるのが苦手なあなただけど、きみちゃんといいコミュニケーションを続けていい家庭を築いてください、私たちも応援しています!」 てる子さんに続き、店全体も拍手に包まれました。
「すごい幸せです。一つひとつが」
午後8時をまわり、かけつけたお客さんがゆっくり楽しめるように、私とカメラマンは取材を切り上げることにしました。ちかさんとてる子さんは、私たちを見送りに玄関に出てくれました。 「いまの保育園は1歳までだから、別の保育園に行くことになって」と、ちかさんはこの日の日中にあった、みぃくんの卒園式の写真をみせてくれました。写真には、ちかさんの腕の中で安心したようにどっしりと座る、みぃくんの姿がありました。 「みぃくん、もう走ったりするんです」と、ちかさんは愛おしそうに写真を見つめます。
「まだまだ慣れない育児に困ることもたくさんあるけど、すごい幸せです。一つひとつが。新たな発見ばかりです」 すっかり親の表情を見せるちかさんの横顔を、てる子さんも頼もしそうに見つめていました。 「お世話になりました、ありがとうございました~」 わたしたちが乗り込んだタクシーがその場を離れるまで、ちかさんとてる子さんは、手を振って見送ってくれました。 わたしは取材以外でも、プライベートで時折この店を訪れていたので、もう店でちかさんに会えないのかと思うと、しみじみと寂しい気持ちになりました。