「こころが男性どうし」の“ふうふ”が作る新たな家族の形「実はいま、きみちゃんは妊娠中で…」子どもの笑顔を守る共感の輪
店のカウンターには、これまでのちかさんの「女装」写真をまとめた「顔面美術館」というタイトルの冊子も置かれています。常連のお客さんがつくってくれたものです。
後輩のみゆさんは、スタッフとして働く前からXでちかさんに注目していたといいます。「すごいメイクをする人だなと…。初めて出勤で一緒になったとき、予想外にちかさんがおとなしい方だったので、ギャップに驚いて」 「次は、みゆさんがこういうメイクをしてみるのはどうか」と私が聞くと、「ちかさんはもうレジェンドの枠なので、あのメイクの枠はもう永久欠番です!」と、笑いながら首を横に振りました。
「子どもの成長の一瞬はとても大切」
ちかさんが、店を卒業すると店長のてる子さんに報告したのは、去年の年末から今年の始めごろでした。 ちかさんは、「子どもの成長の一瞬はとても大切だし、少しでも多く関わりたいという思いもあって、きみちゃんに任せきりだったところも多いから」と、引き締まった顔で卒業の理由を語ってくれました。 ちかさんときみちゃんは千歳市に住んでいて、店があるススキノとは車や電車で1時間ほどの距離があります。ちかさんは、この店の他にも別の仕事もしているため忙しい日々を送っていて、子育てをきみちゃんに任せきりになっていたといいます。
店長のてる子さんは、店に勤め始めた6年前、引っ込み思案なちかさんが、メイクを通して自分なりの「楽しませ方」を少しずつ身に着けていったと、懐かしく振り返ります。 「このメイクのおかげでいろんな人に知ってもらって、たくさんの人に愛してもらったなって、店長としてすごく感じる」 店長のてる子さんにとって、店のスタッフは一生子どものような存在です。 「私もみぃくんの『おばあちゃん』と思っているから、いつでも孫の顔も見せに来て……って、なんか姑みたいね」
この場所のおかげで、いまの自分も家族もある
ちかさんは4年前、「この店はどんな場所ですか」という私の質問に、「自分の本来の居場所だと思っている」と答えていました。その場所を離れることに不安はないのか尋ねると、ゆっくりと噛みしめるように答えました。 「寂しさはあるけど、この店がある限りまったく無関係になるわけじゃない。この場所のおかげで、いまの自分も家族もあるから」