【昼酒御免!】優しげな風格すら漂う絶品煮込み 「上野高架下」のもつ焼き屋、真っ昼間の活況
「くぁーっ! うめえ!」生ビールと絶品煮込み
いよっ! 待ってました、大統領! 心の中でそう叫びながら店の前まで行くと、おお! 満席である。どう見たって座れない。それくらい、すでにして詰め詰めでみなさん座っていらっしゃる。はい、ちょっとごめんよ、と割り込む隙がないのだ。店の兄さんは、「待ち、待ち」と言うだけ。私はカウンターの中のお姐さんにVサインを送って、2名であることを伝える。 待つこと、しばし。幸運なことに、ほんの5分も立って待っていたら、コの字のカウンターの奥のほうに通された。店内に入ってみると、路地に面した間口は全開なのに、奥のほう、エアコンが効いていて暑くない。すでにして、天国気分。さっそく頼むは生ビールだ。 この店に来るのは何度目だろう。来るときはいつも昼酒だった。いつぞやは、同行の人に東京西部の私の出身高校の話をさんざんしていたら、会話の途切れたすきに、背後のテーブルで飲んでいた3人連れが、母校の隣街の高校の出身者であると声をかけてきた。それをきっかけに、上野のガード下のこの店で、同じ東京でもかつては東京都下と呼ばれた多摩地域の思い出話でひとしきり盛り上がったりしたものだった。
今回は、昼酒御免の伴走を買って出てくれた編集ケンちゃんとのふたり昼酒。生ビールのジョッキをガチンと合わせて、カンパーイ! と叫ぶ、のは心の中だけ。私たちはマナーに心をくだく昼酒愛好家である。というのも嘘で、生ビールをぐびりとやるや、 「くぁーっ! うめえ!」 「最高だねえ!」 と、けっこうデカい声を出している。なに、迷惑をかけるほどではないのだから、気楽に楽しく飲むに限る。店内を見れば、カップルの姿もあるし、若いきれいな娘さんたちの姿もあって、彩も華やかだ。上野も変わったよなあ、と感嘆の言葉をもらしたいくらいなのだ。 ここへ来たら、煮込みを頼もう。モツとコンニャクと豆腐が盛られたその上にシャキシャキの刻みネギ。このモツ、ネット検索して調べると、馬のモツと書いてある。その場で聞けばよかったが、私はこれまで、豚だとばかり思ってきた。本当に馬のモツならば、還暦過ぎて知識も改まり、ありがたい限りである。 それはともかく、この煮込み。さすがのうまさだ。濃厚そうに見えてその実あっさりしている。しっかり者なのに、ねちっこくはない、練れた人の風格を備えている。店名は大統領だけど、懐手をした大旦那みたいなやさし気な風格があるのだ。 それから、冷しトマト。アタシは好きだ、冷やしトマトが。とくに暑い季節。大量の水を飲んだものか我慢すべきか迷いつつやってきた私にとって、トマトの汁気ほど、うまいものはない。皿の隅に塩を盛って、そこに付けながら食べるのが至福の楽しみだが、血圧にも痛風にもよくない塩分を、過多と言われるくらいがちょうどよいと嘯きながらいただくのである。 うーん……。大統領、さすがだね、最高だね。 そんなことを思っていると、シロの串が2本出てきた。シロは私の好みでタレ焼きを頼んである。ほかにはもちろんタン塩も欠かせないのであるが、大統領のシロモツ、最高だ。表面はしっかり焼きで、噛めばニュルリとうま味が滲みだす。タレのうまさもあるけれど、これはモツのうまさ。ひと口食べたら、七味をふって、味のバリエーションを楽しむことも忘れない。