1館から全国上映へ。『侍タイムスリッパー』監督とキャストが語る、高みを目指した撮影現場
高みを目指した撮影現場。「終わったら預金残高は6,250円しかなかった」
―俳優さんによるアドリブもいくつかあったという噂ですが、具体的に教えてもらえますか? 安田:アドリブは馬木也さんが多かったですね。自分が会津出身やったらこう表現するだろうと「磐梯山の雪のような白さ」と言っておにぎりを食べたり。元は「白いご飯でござるな」ぐらいの台詞だったんですよ。あとは最後の決闘後の天丼で出てくる「今日がその日ではない」という台詞もそう。台本になかったけど、馬木也さんが「思いついたんでやっていいですか?」って。 ―今作屈指の名台詞じゃないですか! 安田:あとは、真剣で立ち合うということを決める試写室のシーンで、みんなの芝居を撮ってから最後に冨家さんを撮ったんです。そしたらつーっと涙を流していて…そんなん台本にないから「なんで!?」って(笑)。 じつはあのシーンは、みんなの芝居を通じてもうちょっと状況の説明をしていたんです。でも冨家さんが「ここはお客さんを信頼して委ねよう」と言ってくれて。それでみんなの説明部分を省いて、高坂と風見だけにフォーカスを当ててみたら、深いシーンになったんですよ。ただ、そのおかげでボツカットが大量に生まれて「初めに言うてください」ってなりましたが(笑)。 冨家:そういうディスカッションができる現場で、みんなが高みを目指してつくりあげたからこそ、エネルギーが画面を通じてお客さんに伝わっているんじゃないかなと思います。 安田:僕もこのレベルの俳優さんたちと映画を撮るのは初めてなので、その凄さに驚きましたし、勉強させてもらいました。雰囲気とお芝居だけを見てオファーしたのに、一緒に仕事をしてみたらここまでの情熱を持ってくれて。本当に運が良かった。 ―撮影が終わったときに監督の預金残高が7,000円しかなかったというエピソードもすごいですよね。 安田:その話が広まった後に通帳を確認したら7,000円じゃなく、6,250円やったんですわ。知らん間にちょっとええ格好してました(笑)。 ―カツカツで撮影していた監督に対し、みなさんはどういう反応だったんですか? 安田:現場ではカツカツ感は出さなかったですよ。お金がないと言えば現場が思いっきりできなくなるんで、ご飯もまあまあ良いものを食べてもらってたし、ホテルもきちっとしたところを用意しました。でもそれを表に出さないからイライラしたんでしょうね。お金がないのにみんな遠慮なく撮影を止めるから(笑)。そのおかげで良いものが撮れましたが。 ―でも、いまではウハウハですよね? 安田:ウハウハじゃないですよ! まだ一銭も入ってきてませんし(笑)。 ―俳優陣のみなさんは、製作中に印象に残っていることはありますか? 田村:僕が劇中でお借りしてたかつらと衣装は、里見浩太朗さんが実際に使われてたものなんです。総髪のかつらは普通はなかなか合わないんですよ。でも今回は一発目に持ってきてもらったそれがスポってシンデレラフィットして。嬉しかったですよね。絶対傷つけてはいけないので、すごく肩がこりましたが(笑)。 ―すごい! かつらと衣装にも注目ですね。 沙倉:俳優ではなく助監督としてのエピソードなんですが……私はホテルの手配も担当していたんです。終盤は滋賀で撮影してたんですけど、馬木也さんは午後入りやから前泊じゃなく当日にくると思ってたんですよ。そしたら撮影前日の夜中に「夜遅くにごめん。滋賀のホテルにいるんだけど、チェックインできなくて……」って電話がかかってきて。 お互いに行き違いがあったみたいで、もうちょっとで主役を野宿させるところでした(笑)。違うホテルを見つけたんですけど、めっちゃ焦りましたね。 ―映画のヒロインの仕事とは思えないですね(笑)。冨家さんはいかがですか? 冨家:馬木也とは一緒に現場と宿舎の行き帰りをしていたんですが、その時間がとにかく楽しくて。監督のこともよく話していましたよ。撮り直しになるかどうかを賭けて、帰りに「ほらね」とか言いあったり(笑)。 なんだかんだ僕らは作品も監督も大好きだったんで、文句を垂れながら笑ってました。風見という役も大好きだし、作品に携われるだけでも幸せだったのに、それが公開されてこれだけ話題になって……。こんな現象に立ち会える俳優なんてほんの僅かだと思うんですよ。だから馬木也とも「俺たち、結構幸せ者だよな」とよく言ってます。