1館から全国上映へ。『侍タイムスリッパー』監督とキャストが語る、高みを目指した撮影現場
時代劇の本場、東映京都での撮影は「緊張感があった」
―今回、時代劇の本場である東映京都撮影所(京都市)が撮影に全面協力しています。東映京都での撮影はいかがでしたか? 冨家:緊張感がありましたね。 安田:東映から参加してくれたのが、照明さんとメイクさんと衣装さん。そして撮影は僕ら10名でやったんですが、そのなかでもスキルがあるのが僕と音声さんだけなんです。あとはアルバイトとか俳優さんがやってくれたりとかで、少数精鋭でもない。そんな集団がプロ中のプロと仕事をするわけですから。 僕は飲まれたらアカンという気持ちでやってましたが。でも初日の炎天下の中で立ち回りを繰り返しお願いをしていたら、ヘトヘトの剣心会の人たちに「立ち回りは2回まででお願いします」って言われて、すんませんってなったり(笑)。そうやって少しずつ勉強していきました。 ―東映の人たちも作品を良くしたいという気持ちが強くて、日々怒号が飛んでいたとか……。 安田:現場ではクライアントの人まで映画を手伝ってくれたんですけど、その人が裸足で廊下から道場に入ろうとしたときに「コラーーー!!!」ってめっちゃ怒られて僕と謝りにいったり、ゆうのちゃんのお母さんが撮影中に照明との間に入っちゃって「入ったあかんやろがぁ!!」って怒られたり……。 沙倉:撮影中は監督がいろいろ指示を出すんですけど、スタッフは手が空いてる人が全然いないからうちの母が飛んでくるんですよ。そのときも髪直しに来てくれたのに怒られてて……(笑)。 安田:東映ではこの時間帯の食事はつなぎ、この時間帯の食事は夜食って明確に決まっているんです。でも外部の人は知らないから「夜食買ってきます!」とかいったら「この時間はつなぎや!」とか怒られたり。さすがにそれは知らんと思いつつ(笑)。そういう怒号は飛び交っていましたけど、こいつらの撮りたいものをちゃんと撮らせてあげようという愛情はつねに感じていました。
ラストの見どころ、真剣での殺陣のシーンはどのように撮影したのか
―本作の最大の見どころはラストの殺陣ですよね。息を呑む名シーンですが、あの部分はどのように作り上げたんでしょうか? 冨家:台本を読んだときに、ここが肝だと思ったんです。最後の殺陣で刀が真剣に見えなかったらこの映画は終わると。だから台本をもらってから撮影に入るまでに、もう一回居合から勉強をやり直しました。 若い頃から若駒(※)や京都で殺陣を学んできましたが、今回あらためて自主練習をして、どうやったら相手と対峙したときその精神性を画で見せられるかを考えて挑みました。でも、あれだけのシーンを撮れたのは馬木也がいたからこそですね。 安田:殺陣師である東映剣会の清家一斗さんと、殺陣師関本役の峰蘭太郎さん協力のもと、「わざとらしいから鍔迫り合い(つばぜりあい)はなし」とか、いろいろ考えながら道場でつくりました。 ただ、現場で実際やってみないとどうなるかわからないと思ってたんです。最初は恐怖を表現するのはどうやろと指示を出したんですけど、みんなに「彼らは並の侍じゃなく達人だから、怖がるのはおかしい」と言われてやめたり……。 気持ちが右往左往しながら、1日目は決定打となる殺陣がなく終わり、その映像を編集しているうちに、長めの「間(ま)」と散発的な切り合いがあれば、真剣で闘っている雰囲気や緊張感が出ると気付いたんです。翌日からは確信を持って間を長めにしたり、刀を合わせるときに力を入れて押し切ろうという冨家さんの迫力のあるお芝居を採用したり。現場でいろんな発見をしながら撮っていきました。 (※)若駒プロ……時代劇や現代劇、CM、映画、バラエティ番組など幅広く活躍する日本の演劇・殺陣プロダクション