竹内まりや、松原みき…昭和の「シティポップ」がなぜ今、海外でブームなのか
鈴木:YOASOBIもそうだったのですが、最初からアニメのような平面的なビジュアル……つまり実写ではない、アニメやイラストを用いたMVからはじまっています。ゲームでも、日本が得意とする平面のコミュニケーションがたびたび登場しますが、アニメにも通じるものがあるのではないかなと思うんですよね。そういう表現に慣れ親しんで来た世代が、それを伴った日本の音楽を受け入れやすかったのだと考えています。 もちろん全てのボカロ楽曲がそうだとは言いません。海外で受け入れられているP(ボカロ作曲者)と、そうでないものには分かれます。たとえばヒップホップのようなジャンルではそこまで受容が進んでいるわけではない。どこを捉えて見るかによって、だいぶ景色は違ってきます。 ● アルゴリズムが引き起こした、 シティポップの再評価 ――日本の70~80年代のいわゆる「シティポップ」が、海外でも流行しています。こちらはいかがでしょうか? 鈴木:先ほどお話ししたゲーム、特に80年代のファミコンをはじめとしたゲームの人気と、それが生み出したカルチャーとの関連が大きいですね。シティポップのリバイバルには、2つ軸があります。1つは「ヨット・ロック」と呼ばれるAOR(アダルト・オリエンティッド・ロック=大人向けのロック)の1ジャンルです。邦楽シティポップがリバイバルされる前からヨット・ロックのブームが起こっていて、その流れのなかで、年代や音楽性が類似していることからYouTubeでリコメンデーション(推奨)されたものと考えられます。それを視聴したユーザーが「これはなんだ?」となって、こんどは海外YouTuberによる解説動画を見にいき、歌詞の意味や時代背景などを理解したところに、また定番シティポップがリコメンデーションされる……という流れがあったということです。
● 昔の音楽+ビジュアルを組み合わせた 「ヴェイパーウェイヴ」ブーム 鈴木:もう1つの軸は、ヴェイパーウェイヴのブームです。Reddit(英語圏でメジャーな掲示板サイト)などで、80~90年代のムード音楽と、当時をイメージさせるサイバーパンクっぽいビジュアルをミックスしたものが人気を博したことが土台になっています。中身は異なりますが、ニコニコ動画におけるボカロ楽曲とMVともよく似たムーブメントですね。 ――当時を懐かしむ、だけでなく、新たな要素が加わることによって、いまの海外の若者にも受け入れられている、ということですね。確かに、YouTubeで人気のシティポップ動画は、ちょっと昔のアニメの映像と組み合わせられているものが多い印象です。80年代のアニメ、例えば「シティハンター」とか。 鈴木:ええ、わたせせいぞうさんのイラストとか、ああいうイメージですよね。シティポップ自体が、70~80年代のアメリカの音楽を下敷きにしているので、共通点が多かったという事でもあります。当時はまだ実際に、例えばアメリカ西海岸を訪れた日本人は少なかったはずですが、テレビなどを通じて得た「かっこいいアメリカ」のイメージを元に音楽やジャケットを作ったりしていた。日本人のアメリカに対する憧れが生み出した、ある意味、現実離れしたビジュアルや音楽に、こんどは当時を彷彿とさせるアニメ風イラストなどの日本「的」イメージを加えて、海外のネット世代が新たなジャンルを生み出していたというのは興味深いですね。そしてそれが、原点とも言えるシティポップのリバイバルにつながっているわけです。
まつもとあつし