【UFC】朝倉海はなぜパントージャに敗れたのか──その内幕を王者と陣営が明かす
◆パルンピーニャ「1Rに朝倉を動かさせて疲れさせる、こと」
その初回からペースを握ったのは、王者のパントージャだった。パントージャのコーナーマンを長年務めるマルコス“パルンピーニャ”ダマッタは、試合後のU-NEXTのインタビューで、作戦をこう語る。 「作戦はとてもシンプルだ。1Rはプレッシャーをかけにいくこと。ところどころでテイクダウンを入れていくこと。それによって相手を少しずつ疲れさせる。もちろんもしチャンスがあれば1Rで仕留める。当然、それはやりたいことだったが、最も重要なのは1Rにおけるポイントは“朝倉を動かさせて疲れさせる”こと。柔術とかレスリングのプレッシャーをかけていくこと。そうして2Rに入ったら、最初の打撃の交換で相手を崩した。テイクダウンではなくそれを打撃で出来たこと、1Rは競っていたけど、そのなかでもテイクダウンを見せていたから、2Rになったらより圧力をかけることができた」と明かす。 パルンピーニャが言う通り、1Rに中央を取ったのは、作戦通り王者だった。本誌の取材に「僕は20試合くらいムエタイの試合に出て、無敗なんだよ」と打撃力にも自信を見せていたパントージャは、強いテイクダウンプレッシャーとカーフ、左フックを当てて圧力をかけた。対する朝倉は跳びヒザ、左テンカオを当てるも下がりながらの打撃で、パントージャの打撃と前進に両手を伸ばして防御しようとするが、組みたくない朝倉にとってクリンチは出来ず。押し込まれテイクダウンで背中を着かされたこともあり、初回から体力を削られる展開だった。相手のテイクダウンを切って、パントージャを削ることは、朝倉海がしたいことだった。 「1発」がある朝倉だが、フライ級でどこまでバンタム級時代のパワーが出せていたか、得意のヒザ蹴りも自身のペースのなかでは出せていなかった。パントージャに圧力をかけられたのは、朝倉からの組み技・寝技を警戒しなくてもいいことが、その前進力を増していた。「すべてが出来る」上で、突出した武器を持つことが、近代MMAでトップに立つための必須条件で、朝倉には欠けていた要素だった。 そして、2Rに左を当てたパントージャは、金網際でのここも堀口を彷彿とさせる足払いで崩してのバックテイク。そこからの胴に足を巻いた4の字ロック=ボディトライアングルは圧巻の動きだった。 タイトに絞めた4の字で腰を制され、ズラすことが出来ない朝倉に、リアネイキドチョークを狙うパントージャ。防ぐ朝倉とのハンドファイトを制した王者はリアネイキドチョークへ、朝倉は組まれた後ろ手を右手で剥がして引き寄せたが、パントージャは、右手で肩を抱いて、左手は朝倉に掴まれたまま、上から蓋をするようにワンハンドチョークを極めた。 試合後、パントージャは「これがUFCのレベルだ。レベルが高すぎるんだ。日本のヤツが俺のベルトを獲れると思ったのか? そんなわけはないだろう。今度は俺が日本へ行って防衛したっていい。でもあの子は強いよ。彼のクレイジーなハイライトリールも見ただろう? だが、オクタゴンのケージの扉が閉じれば関係ない。ここが俺の場所で、俺は自由だ。 あのボディトライアングルは“パルンピーニャ・フック”だ。練習でいつもタフなATTのチームで使っている。チームメイトの堀口恭司、アドリアーノ・モラエスらの協力に感謝したい。以前の俺のように練習してほかの仕事もして、みんなとてもいい人たちだ。夢があるならどんなに遠くても仕事を2つ、3つ続けていても、一生懸命努力して、夢を実現させてほしい。 今年引退したけれども、デメトリアス(ジョンソン)へのメッセージがある。俺がGOATだ。あなたがGOATだと証明したいなら戻って来い」と語った。