タカタのエアバッグリコール その原因はどこにある?
そもそも工場を建設するのは人口密集地ではない。土地の安い田舎に作るはずだ。ただでさえ労働者候補が少ないのに、近隣には当然サプライヤーより給料の高い自動車メーカーの工場があるのだし、他の各種サプライヤーの工場だってある。労働者の奪い合いが起こる環境は整っており、人数確保のためには採用基準を緩めないと工場が稼働しないことは十分起こり得る。 こうした中で、質の低い労働者によって基準を満たさない製品が作られたのではないか、という疑いを筆者は持っている。日本で作っていればそんなことは起きないのではないか。 もちろん責任ある大人の世界の話として、サプライヤーであるタカタが正常な部品を納入するのは当たり前の話である。どんな地の果てに工場を作ると言われても、それで業務を受託した以上、それを自動車メーカーの横暴だと言ってタカタを庇うつもりはない。しかし、実際の話として交渉手段が無いに等しい一方的な通達に「イエス、サー!」で高品質を保証できる工場がポンポンと実現できるかどうかもまた考えるべき点だろう。今回一連の不具合を出したタカタの工場全てがこれに当てはまるかどうかはわからないが、メーカーとサプライヤーの間に横たわる一般的な現実として、そういう構造はあちこちにあるのだ。 そしてわれわれユーザーだ。ジャストインタイムの問題を取り上げれば「巨大メーカーの下請けいじめだ」と早とちりする人がいるかも知れない。しかし、自動車メーカーがジャストインタイムで効率を上げた成果の一部は、われわれユーザーが安価な製品を手に入れられることに密接に結びついている。これもまた誤解を招くおそれがあるので書いておかねばならないが、ユーザーがよりよい製品をより安価に求めることは資本主義の原則に照らして何も問題がない。 誰かひとりを悪者にして済む話では無い。サプライヤーは技術を反映した良質な製品を作り、自動車メーカーは効率的な経営をして高品質で安価な製品を作り、ユーザーは良い製品を安価に入手する。今回の様にそのチェーンが毀損した時、その責任を一か所にかぶせて正義を振りかざしても不毛なだけだ。 タカタはこのジャンルで世界2位のシェアを持つ日本メーカーだ。そういう優秀なサプライヤーがあって日本の自動車産業がある。それを無暗に攻撃して弱体化させないために、われわれはこうしたリコールの起きた原因に正しい興味を持ち、ミスを叱咤すると同時に激励もしていかなくてはならないと思うのだ。筆者は経営コンサルタントではないので、この負の連鎖をどうしたら解決できるのかはわからない。ただメディアにできることは、こうした状況や構造を少しでも多くの人に知らしめ、やがて人々の叡智が結集されることを祈るだけだ。 (池田直渡・モータージャーナル)