世界を驚かせたNASAの次期長官人事、トランプとマスクが結束するアメリカ宇宙政策の舞台裏とは?
■ 打ち上げコスト1%へ なぜスペースXがロケットのコストを圧倒的に低減できたかについては、多くが語られてきた。開発製造を極力自社で賄う「垂直統合」や、設計からテストに至る各行程を反復的に行う「アジャイル方式」など、同社が取り入れた製造手法は特に注目された。 また、トム・ミュラー氏をはじめとしたTRWのエンジニアがマスク氏に合流し、ロケットエンジン「マーリン」を完成させたことは、その成功を語る上で欠かせない要素とされる。 ただし、その成功の根源には、最初期のマスク氏が感じた既存ロケットに対する違和感があった。開発製造にかかった経費が全て上乗せされるコストプラス契約の下、国策企業がNASAや政府機関に販売するロケットの原価は、マスク氏自身が素材原価から見積もった限りでは2%でしかなかったという。 つまりその上代は、一般的な工業製品と比べて異常に高額な状態にあり、であればロケットの価格は大幅に低減できると考えたのだ。 さらに重要なポイントとしては、再使用と高頻度の打ち上げが挙げられる。マスク氏は2011年、ロケットの「打ち上げコストは100分の1になる」と説明した。このコメントはファルコン9のコスト低減に関して語られたものだが、ここでは当時の他社ロケットとの比較を示したい。 2018年当時のFAAの資料を見ると、ファルコン9の打ち上げコストは4900万ドル(73億5000万円)とあり、LEO(低軌道)への1トン当たりのコストは3.2億円になる。 これに対し、当時の主要ロケットであるアトラスV、デルタIVヘビー、アリアン5、アンガラA5の同平均コストは11億ドル。つまりブースターの再使用を実現したファルコン9は、その時点で他社平均の29%までコストを低減している。 その後、ファルコン9の打ち上げ頻度は劇的に増加し、直近でそのコストは2000万ドル(30億円)以下と推定される。その結果、2018年当時の他社ロケットと比較した場合には、1トン当たりのコストは最大12%まで圧縮されたことになる。 スペースXでは自社のスターリンク衛星を大量に打ち上げることでファルコン9の需要を増幅し、その通信サービスを世界に展開することでコスト回収を図っている。