世界を驚かせたNASAの次期長官人事、トランプとマスクが結束するアメリカ宇宙政策の舞台裏とは?
この予算圧縮キャンペーンの中、特に存続が危ぶまれているのが「SLS」(スペースローンチシステム)だ。アルテミス計画で使用されるこの大型ロケットは、クルー4名が搭乗した宇宙船オリオンを打ち上げる。 その1回の打上げ費用はNASAの監察総監室(OIG)によると42億ドル(6300億円)と算出(2023年5月時点)され、当初予算の4倍に達するそのコストはさらに膨らむと予想されている。トランプ新政権下でその運用が中止される可能性は高く、その場合は関連スタッフ数万人が職を失うことになる。 ■ マスク氏の影響力 3つ目の驚きは、DOGE(政府効率化省)の議長に就任するイーロン・マスク氏の影響力を、改めて認識させられた点にある。 前例のない事業を数多く展開するマスク氏は、さまざまな局面で規制当局と対峙してきた。主にその対象はFAA(米連邦航空局)やEPA(米環境保護庁)などだが、それらの過剰規制を打破するためにマスク氏は、トランプ支援団体「アメリカPAC」を設立し、多額の献金を行った。 その結果、歳出削減を主導するDOGEのトップに就任。つまりマスク氏は、これまで彼の事業を監視してきた団体を、逆に監視する立場になった。 昨今のポストを見る限り、マスク氏の言動は監視役にとどまらない。トランプ氏とゼレンスキー大統領の電話協議にも同席し、さらには財務長官の人事にも意見している。公表されていないが、今回アイザックマン氏をNASA長官に推したのもマスク氏のはずだ。彼らは宇宙事業で結束しており、アイザックマン氏はスペースXのスポンサーでもある。 DOGEは諮問機関のため、マスク氏の活動は利益相反行為に当たらないとされるが、すでに批判は多い。トランプ氏の勝利の貢献者であるマスク氏が進言すれば即座に形になる、そのリレーションは少なからずインパクトをもたらした。今回のNASA長官指名は変革の予兆でしかない。この流れは宇宙産業だけでなく、今後あらゆる産業に波及する可能性がある。