計算通りにはいかないことの豊かさを描けたらいい――小林武史が約9万坪の農地で開催するフェスで描くSDGs
今回の「ap bank fes」のテーマは「to U」だという。Bank Bandが2005年にリリースし、これまで何度もフェスの場で披露してきた楽曲だ。9月29日にリリースされるベストアルバム『沿志奏逢 4』にも収録される。 「今回は、2005年にリリースした『to U』がテーマになっています。櫻井くんは『自分以外の誰かのためを想って』と言っていました。それがテーマと言えると思います。僕はそこに補足をしたのですが、『自分以外の誰かのためを想って』という言葉の中の、『自分以外』というのは、『自分たち以外』と言い換えることもできるし、『自分以外の何かのため』と言い換えることもできると僕は思っています。その境界は固定されたものではないはずだけれど、そこを行き来する思いや何らかの力が、本当に大切なものだと思っています」 『沿志奏逢 4』は、Bank Bandの18年の活動を総括するベスト盤である。ap bankやBank Bandでの経験を通して、自分たちの手から離れさまざまな人々のもとへ届いた作品たちによって、自分たち自身もより豊かな音楽体験を積み重ねてきたという実感が小林にあるのだという。そこにあるのは、音楽が社会の中で循環していく姿であり、『沿志奏逢 4』に収録されているのは、いわば持続していく作品たちだ。 「ap bank fes ’21 online in KURKKU FIELDS」の舞台となるクルックフィールズを運営する会社「kurkku(クルック)」を小林が立ち上げたのも、『to U』のリリースと同じ2005年のことだ。2010年には木更津に約9万坪(30ha)の牧場跡地を購入し、残土置き場になっていた場所を開墾し、10年以上にわたって有機農業に取り組んできた。 ap bankに端を発し、小林らが行ってきた食や農業の分野における一つの試みが、今度は音楽の場として活用されることになる。 「エンターテインメントというのは、必ずしも『わかりやすい』ということが全ての美徳ではないんです」 小林はこう語る。20年をかけて、じっくりと地に根を張ってきた循環型社会への探求が、確かな実を結ぼうとしている。
--- 小林武史(こばやし・たけし) Mr.Children、宮本浩次、back numberなど、数多くのアーティストのプロデュースを手掛ける。My Little Loverのほか、岩井俊二監督の映画『スワロウテイル』でも、音楽監督のほかYEN TOWN BANDのメンバーを務めた。2003年にMr.Childrenの櫻井和寿、坂本龍一と非営利団体「ap bank」を設立。