計算通りにはいかないことの豊かさを描けたらいい――小林武史が約9万坪の農地で開催するフェスで描くSDGs
小林は、宮城県石巻市を主な舞台としたアート・音楽・食の総合芸術祭「Reborn-Art Festival」の実行委員長もつとめている。 2011年の東日本大震災は、「ap bank」にとっても、大きなターニングポイントになった。2011年と2012年に開催された「ap bank fes」はイベントの収益金全額を震災の復興支援に充当している。復興支援活動を続けていく中で、小林の中には長期にわたって開催される芸術祭を被災地で継続的に行っていくというアイデアが育っていった。 「東日本大震災は福島の原発事故を併発している震災でもある。それは東京という都市の豊かさを支えるために生まれた事故とも言える。だから、大きな経済への依存で成り立つ復興でいいのか、それだけではあまりにも危ういのではないかという思いが最初からありました。そんな中で、北川フラムさんという人との出会いがあった。北川さんが中心となって新潟県の越後妻有でやっている『大地の芸術祭』という芸術祭に2011年の夏に行くことになったんです。そこで、都市の経済ではなく、地域の営みの集積の中でこの世界ができているということが、はっきりと伝わってきた。アート作品を通して、自然の一部として僕たち人間がいるということを感じた。震災の後の東北にそういう視点を持っていくということが、大事なことなんじゃないかと思った」 「Reborn-Art Festival」は2017年に第1回、2019年に第2回を開催。震災から10年という節目の年を迎えた第3回は、2021年夏と2022年春の2期に分けての開催となった。 「芸術祭というのは音楽フェスと違って、長い期間でその地域に入っていけるんです。お金を落とすだけでは、長期にわたる地域との関わりをなかなか作れない。『Reborn-Art Festival』は2016年にプレイベントを行っていますが、準備が始まったのは2013年頃からです。宮城県石巻市というのは震災で一番被害があった場所のひとつですけれど、そういう場所で、都市にはできない『出会う』という化学反応を起こす必要があった。そこから『Reborn-Art Festival』が始まったんです」