没個性の品ぞろえをやめて売り上げ10倍 大手生保から転身した神保町の履物店5代目が広げた間口
モダンクラシックな下駄と草履
大和屋履物店は2021年5月1日、リニューアルオープンにこぎつけました。 古木を生かした店内は、モダンクラシックともいうべきたたずまいを具現しています。その品ぞろえは、下駄が30足前後で、中心価格帯は1万~2万円。草履は7900円と8100円の二本立て。手ぬぐいなどの伝統工芸品も展開しています。 それらの品々が整然と並べられた空間は、どこかのミュージアムのようにすっきりとしています。 下駄は矢沢桐材店とみやべもくり、草履は軽部(かるべ)草履を扱います。 矢沢桐材店が工房を構えるのは、5月になれば町一帯が紫(桐の花の色)に煙るといわれた福島県金山町です。福島県は日本有数の桐材の産地として知られています。 なかでも金山町のある会津地方のそれは「会津桐」と呼ばれて珍重されてきました。桐下駄の匠とうたわれる矢沢桐材店は、材木の切り出しから乾燥、成形、仕上げまで一貫して行う生産体制を整えています。 みやべもくりはかつて数十軒の同業者がひしめいた愛媛県内子町の工房。最後の一軒となったその工房を継ぐ宮部泰明さんは、えひめ伝統工芸士にも認定され、意気軒高です。シコロ織りや胡麻竹貼りといった往時の技法を得意とします。 両工房とのパイプをつくったのは4代目の佳子さん。現地まで足を運んで口説き落としたそうです。このたびのリニューアル話が持ち上がる前の話です。 鼻緒は日本各地からみつけてきた生地を職人に仕立ててもらっています。常時100種類がそろうその多くは一点もの。注文が入ると一つひとつ、店内ですげていきます。 品ぞろえに厚みをもたせるべく、あらたに取引を始めたのが軽部草履。山形古来の手編み草履をいまに伝える寒河江市の老舗です。売り場に並ぶ草履はすべて大和屋履物店のためだけにつくられています。 以上に共通するのは下駄を主とした日本の履物で、かつ、ここでしか手に入らない、というもの。船曵さんは「ネットでなんでも買える時代です。足を運んでもらおうと思えばそれ以外の方向性は考えられませんでした」と話しました。