<リオ五輪>グレコ銀の太田をレスリングに導いた父の作戦?!
リオ五輪が日本代表として本格デビューになったレスリングの男子グレコローマン59kg級の太田忍(22、ALSOK)は、銀メダリストとなっても表彰式では笑顔を見せず、記念撮影が終わると首にあったメダルをすぐに外した。22歳の太田にとって、リオ五輪は競技人生の集大成ではなく、4年後の東京五輪で金メダリストになることまでがレスリング人生のプランだからだ。1番になれなかったことにこだわる太田は、試合後、悔しさを隠さなかった。 「金メダルだけを目指してやってきたのに。世界一の練習をしてきたつもりなのに、世界で2番目の練習にしかなっていなかったのかもしれない。もっともっと練習して、世界で1番になれるよう頑張りたい。4年後、やってやろうという気持ちです」 悔しくてたまらない太田には悪いが、試合前日、組み合わせ抽選結果をみたときは、よくて3位決定戦への進出だろうと予想していた。初戦が、6度の世界選手権優勝とロンドン五輪金のソリアン(イラン)、2試合目は、昨年の世界3位のケビスパエフ(カザフスタン)、さらに勝ち上がっても、準決勝では、北京、ロンドンと五輪2大会連続銀のバイラモフ(アゼルバイジャン)と対戦する厳しい組み合わせだったからである。 今年3月の五輪アジア予選では、そのソリアンを下してく五輪出場権利を手にしている。ピーク時の強さはないとはいえ、グレコローマン軽量級の一時代を築いたベテラン相手に、2度のビギナーズラックはないだろう。他国のコーチから「忍者」とあだ名をつけられたほど絶妙なバランス感覚を持ち、大きな失点が少ない太田だが、世界選手権に出場したことはない。技術とその展開の引き出しの多さが勝敗に大きく影響しがちなグレコローマンで、経験不足はマイナスと受け取られやすい。 ところが、準決勝までの太田の試合ぶりは、どんな小さなチャンスも見逃さない貪欲さと、自信に満ちあふれていた。 振り返れば、五輪予選を控えていた今春、西口茂樹・男子グレコローマン監督は「もし今回のメンバーで金メダルまで狙えるとしたら、爆発力をもった太田かもしれない」と漏らしていた。1番にこだわる勝利への執着や、大事な日に忘れ物をして遅刻するといった良い意味での図太さなど、経験がないことを糧にできるタイプだと見込んでの言葉だったのだろう。 その言葉どおり、経験の少なさがプラスに働き試合ごとに調子をあげてゆく太田だったが、懸念がひとつだけ続いていた。パッシブ(注意)を先につけられ、ディフェンスの姿勢から始めさせられる試合が続いていたからだ。準決勝までは、その不安を「忍者」ぶりでかわし続けた。しかし決勝で対戦したボレロモリナ(キューバ)には通用せず、大きく投げられ、右腕を封じ込める腕取りで思うように動かせてもらえないまま敗れた。 「ディフェンスが足りなかった。腕取りがすごく嫌いなんですが、それを続けられて厳しかったですね。もっとディフェンスをやらないと」 太田が初戦から準決勝までに破った強豪選手は、いずれも2005年に20歳で世界王者になったソリアンと、彼を中心に世界一の座を競ってきた30歳前後のベテランたちだ。一方、金メダリストとなったボレロモリナは24歳、太田は22歳で、この五輪は新時代の到来を告げる大会だったといえるだろう。もちろん、太田は新世代を代表する選手の一人に数えられる。