ガンジス川でご遺体が…ダウン症のある娘とともにインドで体感した「生と死」
この旅で「夫が私と娘にみせたかったもの」
翌朝4時過ぎ、ガンジス川へ向かうツアーへ出発。 夜明け前、バラナシの道は既にガンジス川へ向かう大勢の人、車、馬、牛、自転車、トゥクトゥクで混み合い、クラクションの音も相変わらず激しい。そんな中をしっかりと娘の手を繋ぎ、現地のガイドさんにピッタリと付いて歩き始めた。 人の多さと今まで経験したことのない雰囲気にやや気おされながらも、気分を紛らわせるため、私たち家族3人は手を繋ぎ、娘の好きな歌を歌いながら、一歩一歩、ガンジス川へ向かって歩いた。しばらくすると、ガンジス川が見えてきた。 夜明け前、子どもから大人まで既に大勢の人が聖なるガンジス川で沐浴をしていた。 かつてテレビで見た光景が、目の前に広がっている。 娘に「これがガンジス川だよ」と伝えると、 「あ! 知ってる! ガンジス川とナイル川は学校で習った。覚えてる!」と、いつもと変わらない調子で答えた。その言葉に一瞬で全身の緊張や不安など、あらゆるものから解放され、救われ、そして、励まされるようだった。そうだ、しっかりしろ! 自分! この旅は娘にも世界を見せてあげたいという初心を忘れそうになっていた自分に気付かされた。 人混みをかき分けるように、ガイドさんに連れられ、ガンジス川へ入った。小舟に乗って、これから朝日が昇ろうとしている、まさにベストなタイミングで私たちはガンジス川の上に浮かんでいた。待機していると、薄暗かった空が徐々に赤く染まっていき、ついに、その時を迎えた。真っ赤に燃える火の玉のような太陽が川の向こうから昇って来たのだ。 その瞬間、ふと気づくと自分の頬をハラハラと涙がこぼれ落ちていた。 夫を見ると、夫の目にも涙があった。 娘はそんな私たちの表情に少し驚いていた。 家族3人、お互いを見合わせた。 ようやく緊張が解れ、そして無言のまま笑顔になった。 娘も穏やかな表情で笑っていた。 夫が見たかった、いや、私たちに見せてくれようとした景色は、“これ”だったのかーー。 小舟に乗る前に買っておいた花の器のロウソクにガイドさんが火を灯してくれた。有名なガンジス川の灯籠流しだ。祈りと共に、その花の器をそっと川面に浮かべ、祈りを込めた。 「この旅を家族みんな元気で無事に終えられますように」 そして、この場所に「連れて来てくれて、ありがとう」と、ようやく感謝の気持ちを夫に伝えることができた。