ガンジス川でご遺体が…ダウン症のある娘とともにインドで体感した「生と死」
トラブルに動揺する私、その傍らで娘は……
バラナシの空港へ到着したのは夜9時過ぎ。 その日、朝5時前に起きてバンコクのホテルを出発してからおよそ16時間が経っており、疲れも限界に達していた。ところが、ここに来て最も恐れていたことが起きてしまった。空港からホテルまで配車アプリを利用しようにも、私も夫も全く電波をキャッチしない。空港Wi-Fiに期待したが、全くダメだった。 夜遅くにも関わらず、一歩空港の外に出ると、タクシーの客引きが激しく、一瞬で囲まれてしまう……。圧倒されて足がすくむが、娘に私の恐怖心が伝わらないよう、冷静を装いつつ、覚悟を決めて、現地のタクシーを利用することにした。ドライバーさんに、ホテルの住所を見せたが、全く英語が通じず、口頭でなんとかホテルの名前を伝えると車は出発した。通じているのか不明のまま、運命を託すことになった。 祈る気持ちで、タクシーに揺られながら、道中ついに私の不安は限界に達し、夫に言ってしまった。「だから世界一周なんて私は行きたくなかった。ましてや子連れなのに旅行会社も通さず、全く何を考えているの? !」と、今まで我慢していた文句を言い始めたら止まらなくなった……。 ふと我に返り、娘を見ると、車の揺れを心地良さそうにスヤスヤと眠っていた……。 真っ暗な夜道、私たちの車のすぐ脇を、自転車、トゥクトゥク、バイクが我先にと競うように走っていく。それに加え、牛や馬、野良犬も私たちと同じ道を普通に歩いているのだ。それぞれが常にぶつかりそうになりながら、激しいクラクションが鳴り止むことはなかった。 それでも、娘は疲れもあったのだろう、気持ちよさそうに眠っていた。娘に「ありがとう」と心の中でつぶやいた。今回の旅では娘の平常心にたびたび救われ、感心させられることが本当に多いのだ。私も目をつぶり、眠りに落ちそうになった頃、ようやくホテルに到着。思わず胸を撫で下ろし、不安から解放され、ホッとしたら涙が出た。 ホテルにチェックインすると、フロントの男性が「空港まで迎えに行ったのになぜタクシーに乗ったんだ?」と言っている……。え~っ!? 不安な思いでやっと辿り着いたというのに……(涙)。どうやら、アプリを通じて夫にメッセージを送ってくれていたようだが、電波がなかったため、そのメッセージを受け取れていなかったようだ。 部屋に着くと、シャワーを浴びて、一刻も早く休みたかったが、ここにきて、インドでは“くれぐれも水に気をつけるように”と出発前あらゆる人から忠告を受けており、特にダウン症のある娘は感染症に弱いため、親戚から「歯磨きもミネラルウォーターを使うように」と言われていたことを思い出す……。 疲れと眠気の限界から、もう全てが面倒になり、思考停止に陥りそうになっていたが、娘にそのことを伝えると、「じゃあ、もう遅いし、歯磨きだけして寝たいから、お水出して」とかなり冷静。娘の言葉に、「そうか、別に夜遅いのにシャワー浴びなきゃいけないってことでもないのか」と気持ちが楽になり、受付でもらったミネラルウォーターで娘と一緒に歯を磨いて、パジャマに着替え、そのままベッドに入った。 娘がとても頼もしく、私よりずっと大人に見えた。