ハリルJ、W杯アジア2次予選は本当に楽勝なのか?
ミドルシュートには引いた相手を前へ誘き出す目的も込められているが、鈴木氏は「一番重要なのは個の力で局面を崩すこと」とFW宇佐美貴史(ガンバ大阪)、MF柴崎岳(鹿島アントラーズ)の名前を挙げながらこう続ける。 「宇佐美のようにドリブルを仕掛けて突破すれば、カバーするために相手は前に出てくるので必ずスペースが生まれる。日本は個人がボールをもちすぎると『エゴだ』と怒られるというか、子どものころからそういう教育を受けてきているからドリブラーが育たない。 いままでいなかったタイプの選手である宇佐美がようやく日本代表に入ってきたのは明るい材料だし、ボランチの位置から縦方向へワンタッチでラストパスを入れられる柴崎は、ハリルホジッチ監督が掲げる世界基準を実践する上で非常に重要な役割を担ってくる。今回のアジア2次予選で対戦する相手ならば、たとえ自陣深くに引かれても問題なく崩せる要素が増えてきたと言っていい」 4対0で快勝した11日のイラク代表との国際親善試合で、1992年生まれの宇佐美と柴崎は初めてそろって先発。前者はドリブル突破で3人を引きつけてからのスルーパスでFW岡崎慎司(マインツ)の、後者はワンタッチの縦パスでFW本田圭佑(ACミラン)のゴールをそれぞれアシストしている。 日本代表に新風を吹き込んだ新星を、さらに光り輝かせるために――。来年3月まで続く長丁場のアジア2次予選が、若手選手が確固たる居場所を築く舞台となると鈴木氏も期待を込めている。 「宇佐美や柴崎をどれだけ成長させてくれるのか。世界に通用する選手にしてくれるのでは、という期待はある。あるいは、彼らに続く若手選手がA代表のレギュラーになるためのチャンスでもあると思う」 11日の開幕節でシンガポールはカンボジアを4対0で、シリアはアフガニスタンを6対0でそれぞれ一蹴。シンガポールは翌12日に来日し、ドイツ人のベルント・シュタンゲ監督のもと、2日連続の非公開練習で調整を重ねている。 佳境を迎えているユーロ2016予選を見ると、世界王者ドイツ、前王者スペイン、強豪オランダが黒星をつけられている。昨夏のW杯ブラジル大会で日本と引き分けたギリシャに至っては、FIFAランキング102位のフェロー諸島にまさかの連敗を喫している。 翻って、アジアはどうか。予選でも気の抜けない伏兵と同じグループになることが少なくないヨーロッパなどと異なり、2次予選レベルではチーム間の実力差がかなり開いていると言わざるを得ない。 こうした状況のなかで、鈴木氏は明確な課題を掲げて戦うことが大事だと指摘する。 「カンボジアなどはA代表が相手をするようなチームではない、というのが正直なところであり、相手があまりに弱いとかえって難しくなる部分もある。ただ、日本人は真面目だし、ハリルホジッチ監督もW杯本番に照準を定めてチームを作っているはずなので、その点は心配する必要はないと思う」 3年後にロシアの地で何を達成できるのか。アジア2次予選は8戦全勝での1位突破という結果だけでなく、ハリルジャパンの目線の高さも問われる戦いとなる。 (文責・藤江直人/スポーツライター)