JTBが欧州で仕掛ける乗合型周遊バスツアー、個人旅行化で挑む新たな事業と投資計画、市場復活へ本気の取り組みを聞いてきた
個人旅行とパッケージ旅行のいいとこ取り
ランドクルーズの最大の特徴は個人旅行とパッケージ旅行のいいとこ取りにある。全ルートを1人から催行し、しかも1日単位で購入することが可能。個人では手配が面倒な観光施設の入場券やホテル宿泊なども一括手配することができる。さらに、パッケージ旅行のように日本語現地添乗係員が同行することから言葉の心配がなく、各都市のフリータイムでは食事や観光の情報も提供してくれる。 日本発のパッケージツアーは、発着の都市や日時が決まってしまうが、ランドクルーズは航空の制約がないことから、どこの都市に入っても、自由にルートを組み立てることができる。バスを乗り換えられるハブ都市機能を設置し、そこから各方面に行けるルートを整えている。 売れ筋ルートの一つは、フランクフルトからローテンブルク経由のミュンヘン、そしてノイシュバンシュタイン城に続くルート、いわゆるロマンチック街道。そのほか、ローマ発フィレンツェ、ミラノ、ベネチアを巡るコース、ウィーン発の中欧コースなども人気だという。 主要119コースをレディメイドとして売り、それ以外は旅行者が組み合わせることが可能。一番短いコースは4日間だが、そこから、1日だけ、1泊2日など希望に合わせて短縮することもできる。 JTBツーリズム事業本部事業推進部国内海外政策チームグループリーダー伊藤寛隆氏は、「(参加者には)フリータイムの多さや24時間日本語電話対応などの安心面が特に評価されている」と明かす。 伊藤氏によると、利用者の26%が20代で最大。次いで30代が15%。ハネムーン、女子旅、一人旅などでの利用が多いことから、鈴木氏は「これまでルックJTBでは取り込めなかった層の獲得に成功している」と手応えを示す。
人材育成などランドクルーズへの投資継続
JTBによるランドクルーズの取扱人数は、スタートした2019年度が3000人程度。コロナ禍の中断を経て2022年7月に運行再開後、2023年度はJTBとして3087人、直近の2024年4月は前年同月比170%で推移している。このほか、JTB以外のタビナカ系OTAや競合他社でも販売しており、その実績を含めると前年比で2倍ほど販売を伸ばしているという。 現在、欧州旅行には、ロシア上空飛行回避によるフライト時間の延長、燃油サーチャージの高止まり、物価高、円安などさまざまなハードルがある。JTBツーリズム事業本部事業推進部国内海外政策担当部長の川原政彦氏は「外部環境を要因として旅行代金が値上がりしている。低価格帯のところが特に影響を受けている」と明かす。 そのなかでも、来年はパリ五輪後の新しい需要、イタリアではカトリック教会の「聖年」に当たる年になるなど、需要喚起の機会が多いことから「欧州全体を盛り上げていく」との方針を示す。また、コロナ後、個人旅行の動きが数字的にも見えているため、「ランドクルーズへの投資を続けていく」と意欲を示した。 JTBでは店舗でのランドクルーズの販売も強化する。ルックJTBとは異なる仕組みの理解を深めるために、昨年から販売スタッフの現地研修を開始。今年度も70~80人の販売スタッフを派遣する計画だ(川原氏)。 また、ランドクルーズの肝の一つが日本語の現地添乗係員の存在。しかし、コロナ禍で離職したガイドや添乗員も多く、「慢性的な人材不足が課題になっている」(鈴木氏)。そこで、JTBでは、ランドクルーズに乗車する添乗員を独自に育成。現在、10人ほどがそれぞれの受け持ちルートを案内しているという。今後も、事業の拡大に合わせて人材育成に投資を続けていく考えだ。