さらし姿の男衆が繰り広げる肉弾戦 かつて「けんか綱」の異名をとった川内大綱引は、時代に合わせた創意工夫で変化を続け次の世代へ
芸術や産業経済など各分野で郷土の発展に貢献した個人・団体を顕彰する第75回南日本文化賞(南日本新聞社主催)は1個人、2団体に決まった。 【写真】川内大綱引保存会の橋口知章会長(左から3人目)と副会長ら=10月18日、薩摩川内市鳥追町のJR川内駅
学術教育部門の川内大綱引保存会(会長・橋口知章氏)は薩摩川内市で400年以上続く伝統行事「川内大綱引」を存続させる目的で1985年に設立。子供大綱引を催して後継者育成に尽力し、健全な行事開催にも努め、今春、国の重要無形民俗文化財に指定された。 社会部門の奄美マングースバスターズ=代表者・松田維(たもつ)氏=は環境省の委託で2005年結成。毒蛇ハブ駆除のため奄美大島に持ち込まれながら、島固有の希少種を襲っていたマングースの捕獲を進め、環境省が今年9月に根絶を宣言した。活動は世界自然遺産登録の際にも高く評価された。 学術教育部門の堤剛氏は日本を代表するチェロ奏者で、2001年から霧島国際音楽祭の音楽監督。45回の節目だった今夏は東京公演を成功させるなど、歴史ある音楽祭として国内外に定着させた。 贈賞式は11月1日、鹿児島市の城山ホテル鹿児島である。 ◇ 薩摩川内市で400年以上続く「川内大綱引」の保存・継承活動を率いる。少子高齢化で伝統行事の存続が全国的な課題となる中、時代に合わせた創意工夫を重ね、地域ぐるみで継承の土台を確立してきた。橋口知章会長(69)は「先人や先輩方の積み重ねと、多くの個人・団体の協力あっての受賞」と喜ぶ。
存続の危機もあった。交代で実行委員会を務めてきた二つの連合青年会が、人手不足や資金難で運営を担えなくなった。広く協力を得られる態勢を整えようと、1985年に発足したのが保存会だ。 活動は本番が開かれる9月前後だけではない。資金集め、学校や警察との協議、大綱の材料となる稲の栽培や縄作りなど多岐にわたり「1年中、誰かが綱に関わっている」。 99年の400年祭を機に始めた子供大綱引は、中学生が綱を練り、小学生が熱戦をくり広げる。本番の綱練りには高校生が参加。「綱に触ってもらう」機会を設けることで、大綱引への愛着とあこがれを育む。 イメージアップにも努めてきた。暴力団関係者や入れ墨のある人の参加を禁止したほか、「けんか綱」という通称も2014年度から使用をやめた。市内外から数千人が集まる性質上、徹底は簡単ではないが「そういう祭りじゃないんだ、と言い続けなければならない」と力を込める。
自主財源確保のため07年から販売を始めた大綱シャツは、今や市民生活に溶け込んでいる。20年に完成した映画「大綱引の恋」のロケには、約400人がエキストラとして参加した。 今年は練り上げた綱を会場へ運ぶ人数でギネス登録を目指していたが、雨の影響で来年へ持ち越しに。「今度こそは、と盛り上がるはず」。継承への歩みはさらに続く。 ◇ 川内大綱引保存会 1985年7月11日、旧川内市や商工会議所などを中心に設立。現在のメンバーは顧問を含め253人。大綱引の起源は諸説あるが、節目を明確にしようと99年に400年祭を開催。2024年3月、国の重要無形民俗文化財に指定された。
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