【紫苑S回顧】衝撃の「1分56秒6」レコードV クリスマスパレードが示した“時計以上”の価値
クリスマスパレードの価値
まず、これだけのレコードが刻まれながら、後半600mは34.0と速い。1986年以降、中山芝2000mで34.0以下だったのは今回で4回目。すべて9月に記録されている。 紫苑Sでは、パッシングスルーが勝った2019年とタイ記録。19年の決着時計は1:58.3で、前後半1000m60.5-57.8のスローによる影響が大きかった。 たいして、今年は前後半1000m58.8-57.8。7Rの58.0よりは遅く、決して速い流れとはいえないものの、19年ほど前半、中盤で楽をしていない。 さらにレース後半1000mのラップは11.9-11.9-11.6-11.4-11.0と残り800mからゴールまで鮮やかに加速ラップを描いた。これも東京の新馬などではみかけるが、急坂が阻む中山では珍しい。 馬場のアシストも加味しないといけないが、このラップを2番手から抜け出し、ミアネーロの決め手を封じたクリスマスパレードは権利獲得とともに価値ある1勝を手にした。春はあと一歩でクラシック出走を逃しただけに、最後の一冠への道が開けたのはうれしい限りだろう。秋はこんなドラマが多い。
成長力を約束された血統
厳しい残暑に「クリスマスパレード」も不釣り合いだが、馬名由来はちょっと洒落ている。母ミスエリカからの連想だという。 ちょっとピンとこないが、クリスマスパレードは南アフリカ原産のツツジ科に属する半耐寒性常緑低木。正式にはエリカ・クリスマスパレード。ジングルベルを連想させるわけではなく、あくまで母からの連想。年末のお祭りとは関わりない。 母は米国産ブレイム産駒。クリスエスの血を引くロベルト系だ。父キタサンブラックは自身もセントライト記念から菊花賞と3歳秋に大成し、代表産駒イクイノックスも同じ時期に秘める能力を解き放った。 キタサンブラックにロベルトとくれば、成長力。クリスマスパレードもこの勝利を合図に飛躍を遂げてほしい。紫苑Sはその可能性を感じるに足りるレースだった。 2着ミアネーロはすでに重賞タイトルを手にしており、ここは休み明けなりに走った。 道中は枠順なりにインに潜み、最後の直線で外へ。手順はフラワーCと同じだったが、今回は外に出すのに手間取った。最後の脚は際立っており、上がり600mは33.0。末脚をみる限り、春とはイメージを一新した印象がある。元来、俊敏性があり、立ち回りが上手く、内回り向きだ。 3着ボンドガールは後方集団の後ろから最後は外へ。正直、この競馬で勝つには難しい馬場だったが、それでもそうせざるを得なかったのは、やはり距離だろう。2000mをこなすなら、後ろで溜めるしかない。内回りで追い込みを決めるには前半の流れなど手助けがいる。 なお、重賞昇格後の紫苑Sで今回馬体減は【0-0-1-26】。ボンドガールの3着は2回目であり、馬体を減らしながらも3着まできたのは能力の証だ。距離の縛りがなくなったとき、ワンランク上のパフォーマンスを発揮するのではないか。 ライタープロフィール 勝木 淳 競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『キタサンブラック伝説 王道を駆け抜けたみんなの愛馬』(星海社新書)に寄稿。
勝木淳