中小企業に眠る「賃上げ力」、6%アップ相当 「利益の3割」投下で ― 試算
全産業で、最も賃上げ力が小さい業種は「運輸・通信業」で2.64%にとどまった。純利益の50%を人件費へ配分しても4.40%分の賃上げ力にとどまった。運輸・通信業に続いて賃上げ力が小さい「小売業」(3.46%)とともに、全国平均(6.31%)を大きく下回った。 小売業のうち、特に「飲食店」(1.89%)は全産業で唯一の1%台となったほか、「食料品小売(食品スーパー等)」(2.46%)など、賃上げ力に乏しい業種が多くみられた。運輸・通信業や小売業では、深刻な人手不足から賃金アップで人手確保を進めたい半面、燃料コストや仕入れコストの増加分を価格に転嫁できないことから、従業員に対して還元可能な利益を多く確保できない現状がみられる。
賃上げ原資の確保に向けた「利益創出」が課題 中小企業は価格転嫁が重要に
企業における「稼ぐ力」は回復傾向にある。帝国データバンクが有する日本企業の財務統計では、2022年度における企業の粗利益率・当期純利益率各平均のいずれも前年を上回った。特に、当期純利益率は23年度に大幅な回復が想定され、過去10年でも高い水準に到達する可能性がある。「収益性が乏しく、賃上げ原資が確保できない」とする声も多い一方、企業全体では採算性が着実に改善傾向にある。 こうしたなかで、内部留保へと回りやすい純利益の3割を人件費へ投下することで、政府要求や組合要求平均を大きく上回る、平均6%の賃上げ率に相当する「賃上げ力」が、日本企業に眠っている可能性がある。人手不足が深刻化するなか、利益に見合った十分な還元を従業員へ振り向ける「人的資源への投下」姿勢が定着するか注目される。 今後は、大幅な賃上げ表明が相次ぐ大企業から、日本企業の大部分を占める中小企業へと賃上げの動きが波及していくかが課題となる。中小企業が持続的な賃上げを行うためには、安定した賃上げ原資の確保、ひいてはコスト増分を取引価格へ上乗せできる価格転嫁力の向上が欠かせない。帝国データバンクの調査では、企業の価格転嫁率は24年2月時点で40%台にとどまり、価格転嫁は依然として低水準だった。 ただ、2024年4月以降の賃金改定においては「ベースアップ」を検討する企業が5割を超えて過去最高水準となるなど、賃上げマインドは日本企業全体に定着しつつある。中小企業が「稼いだ利益」を賃上げ原資へと配分しやすい環境づくりが重要になる。