中小企業に眠る「賃上げ力」、6%アップ相当 「利益の3割」投下で ― 試算
当期純利益の10%分のみを人件費へ投下した場合では、全国平均で2.10%の賃上げ率にとどまり、政府の要求水準を大きく下回った。大企業でも6.31%相当にとどまり、利益の多くを利益剰余金など内部留保に回した場合、大幅な賃上げは困難だった。当期純利益の50%分では、全国平均で10.52%の賃上げが可能で、中小企業は9.84%、大企業は30%を超える水準となった。 ただ、賃上げ力の詳細を見ると、純利益のうち「10%」「30%」「50%」をそれぞれ人件費に充てた場合のいずれも賃上げ力が「ゼロ」の企業が17.1%を占め、収益力に乏しく賃上げができない=「無い袖は振れない」企業もみられた。
「不動産業」「サービス業」が上位 価格転嫁が厳しい「運輸・通信」「小売」は低位と二極化
業種別の賃上げ力をみると、当期純利益の30%分を人件費へ「投下」した場合、最も賃上げ力が大きいのは「不動産業」で、21.08%分相当の賃上げが可能だった。不動産業では、特にディベロッパーなどの開発部門で不動産投資などによる収益回復から大幅な増益となった企業が多く、賃上げ力が他産業に比べて突出した大きさとなった。 2番目に賃上げ力が大きい業種は「サービス業」だった。平均8.37%の賃上げ力を有する試算となったものの、業種間によって賃上げ力には大きな差がみられた。サービス業で最も賃上げ力が大きいのは「自動車整備等」(11.24%)で、講師などの採用が進む学習塾など「専門サービス」(10.89%)でも10%を超える水準だった。一方で、地域医療を支える病院やクリニックなど「医療業」(2.02%)は2%台にとどまった。 医療機関では、看護師など医療従事者の賃上げを目的として、2024年度の診療報酬がプラス改定となるなど、賃上げに向けた環境整備が進められている。ただ、医療材料費や電気ガス代など光熱費の高騰、入院設備を有する医療機関では食材費やリネン費などの高騰が経営を圧迫し、職員に対する賃上げ余力が乏しい状態もみられた。