現代のイノベーション思考に不可欠な「スーパーサイクル」という概念融合
テクノロジー・スーパーサイクル時代は、すでに始まっている
先述のTOAで、私が「テクノロジー・スーパーサイクル」を実感した象徴的な話をしよう。 まずは、イギリスで創業したスタートアップのPhytoformの共同創業者兼CEOであるウィリアム・ペルトン氏の講演だ。同社はChatGPTのような生成AI「CRE.AI.TIVE」を独自に開発した。「CRE.AI.TIVE」は遺伝子編集における組み替えを「予知」する。つまり、生成AIがDNAの配列を具体的に提示し、それをもとにDNAの文字列に書き込まれた遺伝情報(ゲノム)を編集するツール「CRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン)を用いて、農作物や植物の改良を行うのだ。 同社のペルトン氏によれば、これまでの品種改良は交配によって行われ、それには10年の時間が必要だったという。それをAIと安価で革新的なゲノム編集ツールを用いて、10分の1、つまり1年に短縮できると講演内で語っていた。無論、改良にかかるコストが劇的に低減するのは明らかだろう。 すでに同社では、糖度の高いトマトやニコチン含量の低いタバコなどを開発したという。そして、今後は気候変動に備えた農作物の品種改良や植物由来の医薬品、さらにバイオ燃料の開発を行う予定だ。私はPhytoformの講演を聴いて、これまでのテクノロジー・トレンドが本格的に新たな段階に突入したことを感じた。「AI」+「バイオテクノロジー」は、私が感じた「テクノロジー・スーパーサイクル」の一例である。 ■3Dプリンタで細胞や器官をプリントする さて、次は「テクノロジー・スーパーサイクル」という概念を汲むことで、どのような未来考察をできるかについて、例を挙げたい。 同じくTOAにて私が知った事例である。前出のPhytoformは、AIと他領域におけるイノベーションが融合した成果だった。これらは今後、各分野で起きることは必至だ。この視点に立てば、単独の分野における革新性に対して、異なる領域を組み合わせた新たな「レンズ」を用意することで、これまでとは異なる見方で未来を想像できる。 米スタートアップのCellbricks社は、バイオ3Dプリンティングを行う企業である。同社では独自の合成生物と化学によるバイオインクを用いて、人間の臓器や皮膚の模倣をする人工細胞をつくる。これまでの試験管による細胞の人工培養と異なり、さらに複雑な細胞構造体をつくることが可能となり、より人間の組織や器官に近いもので治験などに活用が期待される。 実際に同社は血管網や腫瘍を人工的にプリンティングしており、それらが試薬に使われているという。同社の創業者であるラッツ・クローク氏は、バイオプリンティング可能な部位として、軟骨、乳房、血管、疾患系細胞(腫瘍)、膵臓、胎盤があると述べた。 クローク氏はコンピュータによって複雑な細胞構造体をデザインし、それを3Dプリンタから出力する映像を紹介してみせた。同社のテクノロジーは今後、再生医療や創薬における試薬のステージを加速させる可能性をもつ。 これだけを聞いたら、いち領域の話で終わってしまうのだが、先の「レンズ」越しに違う見方をしてみよう。そのためには、TOAで聴講したもう一つの講演を紹介したい。