年金の「財政検証」のポイントと年金受給額のリアル。国民年金保険料の「納付期間45年案」は見送りへ
なぜ「マクロ経済スライド」があるのか
保険料負担と年金給付額のバランス調整に欠かせないのが「マクロ経済スライド」です。 マクロ経済スライドは、保険料負担と年金給付額のバランスを取るための調整をする役割があります。 日本の公的年金は現役世代が保険料を負担し、高齢者世代が受給する「世代間の支え合い」で成り立つ制度です。 保険料負担が過度になったり、年金給付額が極端に少なくなったりすると、制度が破綻してしまいます。 マクロ経済スライドで保険料と給付額を調整することによって、年金制度の長期維持を図っているのです。 マクロ経済スライドでは、賃金や物価による改定率から、現役の被保険者の減少と平均余命の伸びに応じて算出した「スライド調整率」を差し引くことによって、年金の給付水準を調整しています。 物価や賃金の上昇が大きい場合はマクロ経済スライドによる調整が行われ、年金給付額が抑制されます。 一方、物価や賃金の上昇が少ない場合や下落している場合は、マクロ経済スライドによる調整をすると年金給付額が下がってしまうため、スライド調整は行いません。 マクロ経済スライドは、年金財政が長期間バランスを保ちながら運営できると判断できるまで、継続して適用されます。とはいえ、いつまでもスライド調整に頼るわけにもいきません。 そこで、政府はマクロ経済スライドによる調整をせずとも安定的に年金を増やせるよう、社会保険の適用拡大を進めています。 実際、2024年の財政検証では、前回と同様にマクロ経済スライドの終了を加味した試算結果を公表。 社会保険の適用拡大をした場合の所得代替率についても、併せて試算結果を公表しています。
夫婦世帯が65歳時点で受け取れる年金モデル【30歳代~60歳代まで】
では、検証結果に基づき、モデル年金の見通しを確かめてみましょう。 夫婦世帯が65歳時点で受け取れる金額に加え、90歳まで受給した場合の見通しをまとめました。 ●実質経済成長率1.1%の場合 <30歳> ・2059年度(65歳):33万3000円 ・2064年度(70歳):33万3000円 ・2069年度(75歳):33万3000円 ・2074年度(80歳):33万3000円 ・2079年度(85歳):35万8000円 ・2084年度(90歳):38万6000円 <40歳> ・2049年度(65歳):28万7000円 ・2054年度(70歳):28万7000円 ・2059年度(75歳):28万7000円 ・2064年度(80歳):28万7000円 ・2069年度(85歳):30万9000円 ・2074年度(90歳):33万3000円 <50歳> ・2039年度(65歳):24万7000円 ・2044年度(70歳):24万7000円 ・2049年度(75歳):24万7000円 ・2054年度(80歳):24万7000円 ・2059年度(85歳):26万6000円 ・2064年度(90歳):28万7000円 <60歳> ・2029年度(65歳):23万円 ・2034年度(70歳):22万4000円 ・2039年度(75歳):22万円 ・2044年度(80歳):22万円 ・2049年度(85歳):22万9000円 ・2054年度(90歳):24万7000円 ●実質経済成長率▲0.1%の場合 <30歳> ・2059年度(65歳):21万3000円 ・2064年度(70歳):21万3000円 ・2069年度(75歳):21万3000円 ・2074年度(80歳):21万3000円 ・2079年度(85歳):21万3000円 ・2084年度(90歳):21万3000円 <40歳> ・2049年度(65歳):21万2000円 ・2054年度(70歳):20万8000円 ・2059年度(75歳):20万6000円 ・2064年度(80歳):20万6000円 ・2069年度(85歳):20万6000円 ・2074年度(90歳):20万6000円 <50歳> ・2039年度(65歳):21万7000円 ・2044年度(70歳):21万2000円 ・2049年度(75歳):20万8000円 ・2054年度(80歳):20万3000円 ・2059年度(85歳):20万1000円 ・2064年度(90歳):20万1000円 <60歳> ・2029年度(65歳):22万3000円 ・2034年度(70歳):21万8000円 ・2039年度(75歳):21万3000円 ・2044年度(80歳):20万8000円 ・2049年度(85歳):20万3000円 ・2054年度(90歳):19万9000円 実質経済成長率が安定的に伸びていけば、すべての年代で長生きするほど受給額が増える試算となりました。 特に30歳の場合は受給時点で33万円台と、60歳の人の受給額よりも10万円ほど多くなっています。 物価や賃金の変動による実質価値の増減はありますが、おおむね現在と同等の年金水準が保たれることがわかります。 一方、経済成長が鈍い場合は、物価の影響を受けて受給額が年々下がっていく試算となりました。 どの年代の人も将来の受給金額はほぼ変わらず、20万円前後で推移しています。 年金水準を保つには、賃金の伸びが欠かせないといえるでしょう。 では、賃金や物価変動の影響を受けずに年金額を増やすにはどのような対策が必要なのでしょうか。政府が進める対策について、次章で紹介します。