祖父とマンツーマンで工程をデータ化 町工場がアップデートした鋳造技術が東京スカイツリーにも
直談判して採用を担当
職人としてのキャリアを確実に重ねていく小林さんが経営者目線を意識するようになったのは、フロンティアすみだ塾への参加がきっかけでした。その塾は事業後継者のための区主導のビジネススクールで、小林さんはのちに会長も務めました。 日々成長を実感する毎日。職人仕事の面白さを目を輝かせて話す最年少の小林さんを同期は諫めました。「おまえはなんのために家業に入ったんだ。後継者になるためだろう」 「頭をガツンと殴られたようだった」と笑う小林さんが、手始めに取り組んだのが求人です。長らく採用をしていなかった東日本金属は、世代交代のタイミングに差し掛かっていました。 「これからうちに来てくれる社員とは自分がもっとも長い付き合いになる。だから、任せてほしい」と直談判しました。 さまざまな試すなか、たどり着いたのが2014年にローンチされた「すみだの仕事」。墨田区の求人に絞ったそのサイトの運営者に出会ったのはローンチの直前でした。 「(運営者は)オープンファクトリーのイベント『スミファ』に顔を出してくれました。聞けば単なる労働条件の羅列ではなく、会社のメリット、デメリット、そして思いをていねいに掘り下げるといいます」 「町工場はどんなことをしているのかなかなか伝わりづらく、ただ漫然と求人するだけでは人は集まらないし、集まったところで長続きはしません。マッチングの大切さを痛感していたわたしはこれは面白いと思いました。スマホ対応やSNSによる拡散など先進的な取り組みにも惹かれました。ぜひに、とお願いしました」 小林さんは同時にCI(コーポレート・アイデンティティ―)にも乗り出します。「すみだの仕事」の運営者にプロデュースしてもらうかたちで、ホームページやパンフレット、会社のロゴも制作しました。 シズル感のある画像、思いを直截に伝える文章で構成したホームページは好評を博しました。ロゴは鋳型に溶湯を流し込んでいる様子を表しています。 数年越しの活動が実り、現場は大幅に若返りました。現在産休をとっている採用1号の女性をはじめ、あらたに加わったのは6人、平均年齢は40代まで下がりました。 人材育成にあたっても小林さんは先頭に立ちました。 「昔ながらの職人は口が悪い。わたしはもっぱら緩衝材の役割を果たしています。また、仕事はあえてやりたいようにやらせて、失敗すればその原因を考えさせるようにしています。根気のいる作業ですが、驚くほど理解が深まる。祖父とのやりとりで学んだことです」