反発する原油価格 安定的上昇が続いた場合、世界経済への影響はどうなる?
2016年2月以降はドル高・原油安の影響が複雑に絡み合い、金融市場の大きな混乱を招きました。しかし、ここのところ原油価格がにわかに反発の傾向がみられます。このまま原油価格は上昇を続けるのでしょうか、それとも上昇は一時的なものなのでしょうか。上昇し続けた場合、世界経済にどのような影響をおよぼすのか、第一生命経済研究所・主任エコノミストの藤代宏一さんが解説します。
このまま原油価格が安定的に上昇した場合はどうなる?
WTI原油が50ドル近傍まで水準を切り上げてきました。筆者は (1)米国原油在庫が異例の高水準にあること (2)最近は稼動リグ数(油田を掘る掘削装置)の減少傾向が一服 (3)将来的な連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ観測復活が金利の付かないコモディティに打撃を与える (4)これまで原油相場をサポートしてきたカナダ・ナイジェリアの供給制約が一過性のものであること などを重視して、原油価格の先行きに弱気な相場観を持っています。とはいえ、一頃に比べて原油価格の先行きに強気な声が多くなったのも事実です。本稿では、筆者の弱気シナリオに反して原油価格が安定的に上昇した場合の影響について考えてみたいと思います。
まず第一に、マイナスの影響として投資家の関心が集中するのは、米個人消費への打撃でしょう。折りしも、米国ではドライブシーズンを迎えるため、原油価格上昇は個人消費の減速懸念につながりやすいので、タイミングがよくありません。実際、ガソリン価格は上昇傾向にあり、それが一因となって消費者マインドにはピークアウト感がみられています。
ただ、幸いなことに、米家計には原油価格下落によって積み上げられてきた貯蓄があり、それがクッションになることで消費への打撃を免れると期待されます。米家計の貯蓄率は16年4月までの3カ月平均で5.6%と約4年ぶりの高水準にあり、これは原油価格下落がスタートした14年4Q以降、消費者が原油価格下落でセーブできたおカネを貯蓄に回した結果と解釈できます。 貯蓄率が上昇するということは、所得に対する消費の割合を減らしているということです。この間の消費者マインド改善と整合しない貯蓄率上昇は、そうした消費行動を映し出していると考えられます。要するに消費者は原油価格の下落を好感する一方、それを原資に消費を活発化させることなく、来たるべく原油価格反発に備えていたということでしょう。 世界GDPの約1/4のシェアを有する米国経済で7割のウェイトを占める個人消費は、その変動が世界経済に極めて大きなインパクトを与えます。これまで原油安のプラス効果はほとんど表面化してきませんでしたが、今度は、ガソリン代、電気代など家計が支出するエネルギーコスト増加に対するクッションという非常に地味な存在ながら、その恩恵が確認されるでしょう。