「さらばモデル年金」誰も知らない財政検証の進化
このモデル年金の将来の所得代替率が法定検証で焦点となります。その結果を自分の年金に置き直す際には、相当の注意が必要なのですが、長く、そうした配慮が欠け、財政検証のたびに誤解と混乱が生じていたのも事実です。 というのも、繰り返しになりますが、モデル年金とは40年間働いて保険料を納めたサラリーマンの夫と、ずっと専業主婦だった妻の世帯が受け取る年金です。しかし今は法律上、65歳まで働き続けることができますし、65~69歳の男女計の就業率も50%を超えています。また共働き世帯のほうが専業主婦世帯よりもはるかに多い。みんなモデル年金とは関係ありません。
そうした中で、モデル年金の所得代替率が何割下がると言われても、それが自分の、今と老後の生活とどんな関係があるのか想像することは普通はできないでしょう。これが冒頭に述べた、健康診断と言いながら、実は理解することが難しいという意味です。 それどころか、年金の不安をあおりたい人たちは、モデル年金の目的外使用を繰り返し、所得代替率の低下率を用いて、あたかもその割合で現在の給付月額が下がるかのような不思議な話をし続けてきたので、年金への将来不安は増すばかりでした。
■モデル年金を超える試みの歴史 こうした背景があり、財政検証ではモデル年金の所得代替率を調べると同時に、モデル年金の設定を超えた試算を別途行う試みが徐々に進められてきました。 2004年年金改革の5年後、2009年の第1回財政検証には、法定検証しかありませんでした。法律上の仕事としてはそれで十分だったからです。 2014年の第2回財政検証のときには、法定検証に加えて、たとえば、モデル年金上の被保険者期間40年を45年に延ばす改革をした場合の試算なども行われました。これは将来に向けた改革の選択肢を示す試算であるため、オプション試算と呼ばれました。
また2019年の第3回財政検証では、さらに幅広い想定で試算を行う資料4「財政検証関連資料」も作られ、たとえば2019年に65歳の人の所得代替率61.7%と同じ水準の年金は、同年20歳の人は66歳9カ月まで働いて保険料を納めれば受給できるというような試算、つまりは、モデル年金上の被保険者期間の延長と繰り下げ受給の効果を組み込んだ試算もなされました(「今年もまた繰り返すの? 財政検証後の年金叩き」)。