「強度」vs「保持」の行方は? プレー強度の高い町田などが優位のシーズン、浦和ら組み立てるチームの巻き返しはなるか【Jコラム】
明治安田J1リーグは第16節まで進み、昇格1年目のFC町田ゼルビアが首位に立っている。プレー強度の高いスタイルを生かし、もはやフロックではない戦いを見せて、直近の浦和レッズ戦ではアウェーながら2-1で勝利をもぎ取った。夏場へと季節が移っていく中で、リーグ全体でどのような変容が見られるだろうか。 【動画】浦和vs町田ハイライト
相手が嫌がること
今シーズン、J1昇格を果たしたFC町田ゼルビアは快進撃を続け、この日も後半アディショナルタイムに決勝ゴールを挙げて浦和レッズに2-1で勝利、11勝2分け3敗として首位の座を守った。 青森山田高校を全国有数の強豪に育て上げた黒田剛監督が指揮する町田は、ダイレクトにゴールを目指す攻撃、ハイプレスに始まりゴールを隠す徹底された守備、そして攻守にわたって高いプレー強度を示して結果を残している。 昨季のヴィッセル神戸の優勝にも表れたように、ハードワークして、球際に強く、攻守にわたって切り替えも素早い、プレー強度の高いチームが優勢な傾向にある。今季のJ1も、首位に立つ町田がそれを象徴している。上位を占めるのも鹿島アントラーズ、神戸、名古屋グランパスなど、同系と言えるチームだ。 町田はこの試合でも、開始直後に得たCKから仙頭啓矢がクロスを上げると見せてタッチライン際に戻し、鈴木準弥がグラウンダーで中へ出して、下田がダイレクトでシュート。ゴールの枠をとらえることはできなかったが、いきなり浦和を慌てさせた。 代名詞ともいえる「ロングスロー」こそ機会が少なかったが、相手ゴールキックの際にはGK西川周作とアレクサンダー・ショルツ、マリウス・ホイブラーテンの両センターバックがペナルティーエリア内でボールをつないで攻撃への起点とするプレーに対して、オ・セフン、藤尾翔太の2トップがペナルティーエリアのライン直前に立ち、ボールが動くや否やプレッシャーをかけようと準備をしていた。これを徹底して行い、浦和の守備陣は自陣からのスタートを制限されてプレーが遅れるとともに、常にプレッシャーを感じて焦らされ、思わぬミスにもつながっていった。 こういったプレーから直接ゴールに結びついたわけではないが、常に相手が嫌がるプレーを繰り返して、勝利への確率を少しでも上げる姿勢が徹底されている。細部もおろそかにしない黒田監督の方針がチームに浸透して、勝利を引き寄せたといえよう。 ■伊藤敦樹と中島翔哉 一方、浦和はペア・マティアス・ヘグモ新監督の下、4-3-3システムをベースとし、監督の戦術を熟知するアンカーのサミュエル・グスタフソン(この日は岩尾憲がアンカーでスタート)の展開力から両ウイングを生かした攻撃の形を浸透させ、高めていこうと試行錯誤してきた。当初なかなかスムーズな組み立てができず成績も安定していなかったが、第12節の横浜F・マリノス戦から3連勝して上昇の兆しを見せていた。 そこまで、アンカーと両ウイングの連係をスムーズにしてかつ得点にも絡むことを期待されていたインサイドハーフがなかなか機能しなかったのだが、それが解消されてきたことが大きい。リーグ戦全試合にスタメンで起用されている伊藤敦樹が横浜FM戦で2得点して、新しい戦術への適応が進んできたことを示した。 第9節のガンバ大阪戦から左ウイングとしてスタメンに起用されるようになった中島翔哉が、ポジションにとらわれすぎることなく中へ入ってのプレーを織り交ぜ、それまでやや硬直した感のあった新システムに効果的な変化をもたらした。町田戦はその中島が負傷で欠場したため、押し込んだ後の変化が物足りなかった。 ヘグモ監督が「(チームの)プレーは非常に良かったが、ラストサードのところの質は上げないといけない」と話したように、ボールポゼッションでは65%と圧倒したが、シュート数、チャンスの数もほぼ互角で、勝負を決める2点目が奪えなかった。 中島の他にも、大久保智明、松尾佑介、関根貴大らウイングとして好プレーを見せてきた選手たちに負傷者が相次いだことも、決め手を欠いた要因だ。それでもオラ・ソルバッケンがその左ウイングで初めてスタメンに名を連ね、終盤に登場した武田英寿が右ウイングとして短い時間で数度のチャンスを作り出すなど好プレーを見せたのはポジティブな変化だろう。 「私は選手たちに満足しています。彼らの姿勢、そしてプレー、ロッカールームでは選手たちに『このチームのポテンシャルは非常に高いものがある。それを今後の練習の中でさらに伸ばしていこう』という話をしました」 ヘグモ監督は今後への期待感をそう表現した。 この日の結果やここまでのリーグの流れを見ればプレー強度の高いチームが優勢で、スキを見せない町田がこのまま走り続けることも十分あり得る。しかし、リーグはまだ半分も終わっていない段階で、浦和を始め横浜FM、FC東京、東京ヴェルディ、川崎フロンターレといったボールを大事にするチームの巻き返しにも期待したい。ここまで結果としては苦しんでいるものの、可能性を感じさせる部分もそれぞれにあるからだ。 多くのチームに優勝を手にする可能性があるところが、Jリーグの魅力でもある。 文◎国吉好弘
サッカーマガジンWeb編集部