揉めずに現状を打破したい人が取るべき10のステップ
■1. チャンスに備える 現状を問う自由参加型の討論会を設けている企業は滅多にないため、自然なワークフローの中でそれを行うしかない。ピッチ資料を携えてベンチャーキャピタリストの前に立つのとはわけが違うが、それと同じように準備すべきだ。あなたの立場が下であればあるほど、きっちりと下準備をしておく必要がある。 あなたが自分の考えを話せるチャンスは、非公式の場や不意の出会いで生まれる可能性が高い。いつ、しかるべきステークホルダーが耳を傾けてくれるかわからないのだ。 ■2. 許可を求める 現状に異議を唱えるにしても、従業員の中には、自分の立場でその参加権があるのかどうか確信が持てない人も多い。そこで、次のように明示的に異議を唱える許可を求めよう。「反対意見を述べてもよろしいですか」「違う考えをお話ししてもよろしいですか」「別の見方を提案してもよろしいですか」 地位のある人からOKが出た瞬間に、個人のリスクは組織的な許可に変わり、責任者は自分のコントロールが維持されることを確信する。そうなれば、あなたの行為は対立ではなく貢献と位置づけられる。 ■3. 主張ではなく質問から始める 現状に異議を唱えると、相手の防衛本能を呼び起こすことがよくある。この反応を和らげるために、反論は主張ではなく質問から始める。対話の形にするのだ。分断、排除、疎外を生むような見解を主張するのではなく、対話に引き込むような質問で相手を武装解除するのだ。 よい質問は知性に訴えかけ、相手が感情的になりにくい。たとえば質問の最初に、「何もしない」という質問をする。「このまま何の改革もしなかったら、どうなると思いますか」。この質問で相手の批判的思考を呼び覚まし、起こりうる結果を声に出して考えるよう促すのである。 ■4. 感情的知性(EI)の模範を示す 逆説的だが、異議を唱える側は、唱えられる側の心理的安全性を生み出し、相手が改善の必要性を認め、考えを整理できるような余地を与える必要がある。あなたの感情的知性(EI)に従って、その安全性を生み出そう。つまり、自己認識をみずからの行動に反映し、相手の非言語的なサインにも注意を払うのだ。 冷静さ、謙虚さ、誠実さを持って話をする。敬意は防衛心を、ユーモアは緊張を和らげることを覚えておこう。デリケートな問題は、人のいないところで提起する。ステークホルダーには、あなたの行動が善意からであること、気になる点や反論があれば聞かせてほしいと告げる。共感を使って、相手や相手の意見への敬意と理解を示そう。 ■5. 経緯を把握していることを示す G. K. チェスタトンは、著書The Thing(未訳)の中で、「道路にフェンスが立てられている」状況を紹介している。熱心な改革者が現状に異議を申し立てにやってくる。「何のためにあるのかわからないから、撤去してしまおう」。すると、現状の代表者が答える。「それがわからないなら、撤去を許可することはできない。出直しなさい。そして戻って、何のためにあるかがわかったと言えたなら、壊す許可を与えてもよい」 これは単純な教訓だが、見過ごされることが多い。現状に異論を唱えたければ、過去を把握せよ。過去の決定や、どのようにして現状に至ったのかについて徹底した知識を得て、前後関係に関する理解を示そう。アイデアを言い放つのはいつでもできるが、現状に反対する準備ができたら、まず行うべきは現状を熟知していると示すことである。 ■6. 意図しない結果になる可能性があることを隠さない 新たな行動指針を提案する場合は、その提案によって状況がどのように改善するのかを説明する立証責任がある。これは、リスクについても正直でなければならないということだ。意図したもの、意図しないものを含めて、1次的、2次的、3次的効果まで考えておこう。 現状批判をしようとして、確証バイアスに陥ることがよくある。確証のない証拠を排除し、意図された1次的効果だけに注目して、それがあたかもすでに証拠となる事実であるかのように扱うといったことが平気で起こる。だが、それは禁物だ。分析に関して透明性と公平性を示せば、正直なリスク開示によってステークホルダーの信頼を得られるだろう。 ■7. 信用を携える 原則として従業員全員に参加権を与え、現状に異議を唱えるよう奨励すべきである。理屈としては素晴らしいが、異論を唱える義務を本当にDNAに組み込んでいる組織は何割あるだろうか。 現状に異議を唱えない日は、すべて準備に費やすべきである。準備はどのようにするのか。実績を重ねて信用を高めるのだ。トーマス・クーンは著書The Structure of Scientific Revolutions(邦訳『科学革命の構造』)の中で、科学の進歩は本質的に破壊的であると説いている。既存の理論だけでなく、さらに重要なことに、既存の約束や決定も覆すのである。したがって、たとえあなたの分析や提言が正しかったとしても、あなたの主張は脅威であり、特に現在のインセンティブ構造で既得権益を得ている人々の反発を当然煽ることになる。あなた個人の信用は、発言に当たって最低条件である。あなたに信用がなければ、あなたの話を聞いてくれたとしても、聞き入れはしないだろう。 ■8. 上司を知る 上司の性格、偏見、志向、目標を理解する。筆者の知り合いに、公の場で異議を唱えられるのが耐えられないという経営幹部がいる。その直属の部下は、KPI(重要業績評価指標)ダッシュボードのいくつかの指標はもはや役に立たず、なくしてもよいと確信していた。彼は重役会議で無遠慮にこのことを助言して上司を驚かせた。主張は正しかったが、アプローチを間違えたのだ。 上司のことをわかっているなら、衝突してはいけない。最善のアプローチを判断するには、以下の点を考えよう。上司が自己防衛や縄張り意識を強くするのはどのような時か。上司は異論反論を奨励しているか。間違いをどの程度認めるか。悪い知らせにはどう対処するか。感情に流されるほうか、動じないほうか。どの程度現状に固執しているか。 ■9. 反論ではなく探索の姿勢を取る 現状を修正または改善する完璧な解決策があると思っていても、反論をどう組み立てるかは慎重に考えるべきだ。たとえば、反論と好奇心に対する人の自然な反応を比較してみよう。人は反論されると恐怖反応を引き起こし、感情が高ぶり、闘争・逃走モードに入りやすい。 それよりも次のような表現を使ってみよう。「このことについて詳しく知りたい」「データからほかにどんなことがわかるだろう」「間違っていたら指摘してください」。その上であなた自身の頭の柔らかさを見せる。つまり、頭の中で考えていることと、それに対する反駁も口に出して言う。あなたが独断的ではなく、好奇心旺盛であることがわかれば、その探索に参加する気になってくれるはずだ。 ■10. データを活用する データには、現状批判を客観化し、リスクを取り除く力がある。説得力のある定量データがあればそれを使う。なければデータの階層を下げる。意味のある定性データがあるか。なければ再び階層を下げ、信頼性の低い事例データを使う。それもなければ、印象に基づくデータ、いわゆる勘に頼ることになる。 どのタイプのデータも認められるが、利害関係者の注意を引くには説得力に欠けるかもしれない。手に入れられる最高のデータを使おう。根拠が乏しく、勘に頼っている場合は、実験、トライアル、パイロットなど、仮説を検証する機会を求めよう。そうすれば、その主張への脅威の感覚を和らげ、新しいことを試すことのリスクやコストも下げられる。 * * * 現状に異議を唱えることは、イノベーションや改善につながるメカニズムである。同時に、恐怖や震えを覚える行動でもある。しかし、勇気を奮い起こすだけでは不十分だ。そう、勇気も必要だが、スキルも必要なのである。 "How to Challenge Your Organization's Status Quo - Productively," HBR.org, December 07, 2023.
ティモシー R. クラーク